希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

協同学習に取り組む高校を訪問して

11月16日と19日に、協同学習を取り入れた授業改善に取り組む和歌山と滋賀の2つの公立高校にお邪魔しました。

両校とも,子どもたちの学びへの意欲を高める積極的な取り組みを進めており、学ぶことの多い実践でした。

M高校での授業では、国語の先生がささやくような小声で授業を進めていました。
これが生徒たちの「聴き合う関係」を作る上で、とても効果的であることを実感しました。

以前はよく、「教師は末席にまで届くように大きな声で」などと指導していましたが、誤りです。
教師の大きな声は、生徒の集中力を妨げ、学びの質を低下させます。

深い学びに入っている生徒は沈黙します。
同校の授業でも、教室が何度もシーンと静まりかえりました。

しかし、それは学びに集中している証拠でした。
まさに、「しっとりとした学び」の情景です。
もちろん、寝ている生徒や内職をしている生徒など、一人もいませんでした。

英語科の若い先生も協同学習を積極的に取り入れていて、感動しました。

東京での学会を挟んで、19日にはK高校へ。

お邪魔するのは3度目でしたが、英語科でも試行錯誤しつつ着実にレベルを上げていました。
何よりも、試行錯誤の中から、先生たちが独自のアイディアを出して協同的な学びを深めている点に感服しました。

黒板にはその時間の授業の流れが示されており、生徒たちは何をどのような手順で勧めるかを理解しています。

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4人班にはミニ・ホワイトボードが配られ、自分たちで仕上げた課題を書いたホワイトボードを次々に黒板に掲示しに行きます。

先生はそれを見ながら、コメントをしていくわけです。
自分たちの「作品」がコメントされるわけですから、生徒たちはとても集中します。

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ただし、先生のコメント(解説)が長すぎると、集中力を切らしてしまう子も出てきますので、メリハリがとても大切です。

集中力を高めるために、班の代表に前に出てもらい、なぜそのような解答に至ったのかを生徒に説明してもらうという工夫をされている先生もおられました。
なるほど、です。

もっとも興味深かったのは、「出張先生」です。

つまり、課題を終えてしまった生徒を前に呼んで、先生が答案を点検し、正解に至った生徒には「出張先生」としてのミッションを与えるのです。

出張先生となった生徒は各班を回り、わからない生徒に対する先生役になります。

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田尻悟郎先生も、課題ができた生徒をAdviserに任命し、相談役になってもらう実践をされていました。

私もある論文で、田尻実践を肯定的に紹介したところ、協同学習では「苦手な生徒が聞ける関係が大事なのであって、できた生徒が教えるのはお節介にあたる」といった主旨の批判を受けました。

たしかに一般論はそうかもしれませんが、しばしば一般論は現実によって覆されます。

K高校の場合、生徒同士の人間関係が良好でしたから、教える生徒も教えられる生徒もニコニコしながら学び合い・教え合いを楽しんでいました。

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一般の教室では、課題ができた生徒がボーと時間をつぶしている情景をよく目にします。
あるいは内職かケータイかおしゃべり。

もったいないことです。

課題が終わったら、級友の支援役にまわることで、自分が人の役に立っていることの喜びを知り、自己肯定感を高めることができるのです。

学ぶことの多い訪問でした。