希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

自前の「到達度試験」かTOEFLか?

7月の参議院選挙を前に、「大学入試にTOEFL等」をめぐる動きが急ピッチです。

グローバル人材育成という観点から、大学入試と英語教育のあり方を抜本的に改めたいという方向性では、①自民党教育再生実行本部、②政府の教育再生実行会議、③政府の日本経済再生本部・産業競争力会議、④文部科学省の4者の間に共通性がかなりあります。

しかし、例の「大学入試にTOEFLに関しては、微妙な温度差があるようです。

再度整理してみましょう。

あくまで日本経済新聞の報道によればですが、文部科学省は6月5日、大学入試センター試験を5年後(2018年)をメドに廃止し、高校在学中に複数回受けられる全国統一試験「到達度テスト」(仮称)を創設して大学入試に活用する検討を始めるとのことです。

TOEFLの利用ではなく、新たな到達度テストの「創設」としているところがポイントです。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0505N_V00C13A6MM8000/

6月6日の第9回教育再生実行会議では、TOEFLをまったく口にせず、高校2年以降に数回受験可能は「達成度試験」という方向性を出しました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/kaigi.html

同日の会議に提出された鈴木高弘委員の資料のなかで、同氏はTOEFLの導入に対して次のように反対しています。
ほとんど、僕らの主張の歓迎すべきパクリです。
このブログを読まれているのでしょうか・・・(^_^;)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai9/siryou.html

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(4)大学入試への英語の外部検定試験の活用について(再提案)

現在、大学入試への「TOEFL」等の活用が検討されている。「TOEFL」は、東大入試の英語よりもはるかに難易度が高く、高校生に課すテストとしては適さない。また、学習指導要領から逸脱しすぎているために、生徒は校外で対策せざるを得ず、学校の英語教育の形骸化と求心力の低下が想定される。また「TOEFL」は、複数回受験できるため、何度も受験させることができる家庭とそうでない家庭との差が、生徒のテストスコアの差に大きくつながる危険性があるなど多くの問題を抱えている。

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教育再生実行会議が「大学入試にTOEFL」を口にしなくなった背景には、こうした内部からの反発があるようです。

次に、6月8日のコメント欄で strong-in-the-rain さんが指摘されているように、政府の日本経済再生本部・産業競争力会議での動向を見てみましょう。

6月5日の第11回会議では、「成長戦略(素案)」が議論されました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/kaisai.html

そこには、次のような方針が盛り込まれています。

○初等中等教育段階からの英語教育を強化する。このため、小学校における英語教育実施学年の早期化、教科化、指導体制のあり方等や、中学校における英語による英語授業実施について検討する。 【今年度から検討開始】

○国家公務員総合職試験や大学入試等に、TOEFL等の国際的な英語試験の導入等を行う。 【国家公務員総合職試験は2015年度から導入】

○世界に勝てる真のグローバル人材を育てるため、教育再生実行会議の提言を踏まえつつ、国際的な英語試験の活用、意欲と能力のある若者全員への留学機会の付与、グローバル化に対応した教育を牽引する学校群の形成を図ることにより、2020 年までに日本人留学生を6 万人(2010 年)から12 万人へ倍増させる。

このように、自民党教育再生実行本部が4月8日に打ち出した「大学入試にTOEFL等」という方針が、ここでは生きています。

この産業競争力会議には、楽天三木谷浩史会長兼社長がメンバーとして加わっています。
本ブログでも紹介しましたように、彼は経済同友会の政策提言に「大学入試にTOEFL」を導入するという方針を盛り込ませた中心人物です。

その三木谷氏は、「成長戦略(素案)」が「TOEFL等」と「等」を付けていることに我慢がならないようです。

そこで、「成長戦略(素案)に対するコメント」を提出し、次のように主張しています。

国家公務員試験や大学入試の英語については、「TOEFL等」ではなく、「TOEFL」に統一すべきである。

社内公用語を英語にした超国家企業のグローバリストとしては、TOEFLという「世界標準」(正しくは米国標準ですが)の難解な試験で英語エリートを選別し、外国人と対等に競わせて、グローバル人材を得ようという戦略なのでしょう。

それが、日本の学校の英語教育(国民教育)をどれほど歪めるかについては、彼には関心はないようです。なんせ、無国籍的なグローバリストですから。

いずれにせよ、「大学入試にTOEFL等」をめぐっては、なおしらばく、せめぎ合いが続くでしょう。

英語教育関係者、特に大学入試や評価論に関わっておられる人が一人でも多く声を上げ、「大学入試にTOEFL等」などというトンデモ方針に反対されることを期待しています。

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http://kotobanokyouiku.blog.fc2.com/blog-entry-18.html