希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

論争!「TOEFL問題」を読み解く:『新英語教育』10月号

新英語教育研究会の機関誌『新英語教育』2013年10月号が以下の特集を組みました。

論争!「TOEFL問題」を読みとく:日本人と英語の学力

5本の論考が掲載されています。

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巻頭論文は、奈良勝行さんの教育再生会議の『提言』は英語教育の再生か破綻かー『大学入試にTOEFL』を中心にー」

今年に入っての自民党教育再生実行本部や政府の実行会議の答申等を中心にしつつ、近年の英語教育についての政府・財界などからの提言や答申も一覧表形式でまとめてあり、この四半世紀の英語教育政策の動向と問題点が具体的につかみやすい好論文です。

論文の最後には、新英研が政府・教育再生実行会議に提出した「公開質問状」の要旨も掲載されています。

7月14日に東京で開催された大津由紀雄斎藤兆史・鳥飼玖美子・江利川春雄の英語教育講演会についての詳細なルポルタージュも田島久士さんによって書かれています。

「『英語教育、迫り来る破綻ーみんなで考え、行動しよう!』に参加して」

登壇した4人の発言のエッセンスを拾い上げながら、見事なコメントをされています。

柳沢民雄さんの論考「大学入試へのTOEFL導入は現実的提案か」では、まず英検、TOEFLTOEIC、IELTSといった外部検定試験の特徴がコンパクトにまとめられています。
その上でTOEFLの内容分析を行い、「使用目的の異なるTOEFLの大学入試への導入はおよそ現実性を欠いた提案である」と結論づけています。

特集ではさらに、「大学入試にTOEFL」といった無謀で非人間的な提言に対置して、中学校・高校における「人間教育としての英語教育」の優れた実践論文が掲載されています。

安野寿美さんの「新英研の財産で英語の授業をハッピーに!~感動教材、自己表現、仲間と学ぶ~」

田中渡さんの「協同学習と自己表現で英語学力を身につける」

田中さんは、論文の最後を次のような見事な言葉で締めくくっています。

教育再生会議の方針は、財界の要請に応え、英語教育をビジネスに変え、一部のエリート(将来の富裕層)だけを養成するための方針に思える。英語教育は人間教育であるべきだ。大企業の社員を育てるためのものではなく、すべての子どもたちの学力を保障し、心を育て、よりよい人類の未来を切り開いていくための知性と感性を併せ持った主権者を育てるためにあるべきだと思う。」

さらに本号には、私たちの『英語教育、迫り来る破綻』に対する寺島隆吉先生による素晴らしい書評も掲載されています。先生に、心から感謝いたします。

書評の中で寺島先生は、「英語教師は本書で『元気の素』を得ただけで満足してはならない」こと、「たとえば自民党は『英語力は経済力』と言っているのですから、それを逆手にとって『英語力は貧困力』と反撃するのも一つの方法かも知れません。事実、EUを典型例として、世界における英語の広まりと貧困の広まりは、目に見えるかたちで、確実に同時進行しているのですから。」と提案・警告されています。

いつもながら、寺島先生らしい「ハッ」とさせられる、そして重い提案・警告です。

編集後記によれば、「今月号のTOEFL特集は、当初の予定を変更して緊急に組まれたものです」とのことです。

この問題への早急な取り組みが必要な状況ですので、編集部の英断に敬意を表します。

『新英語教育』10月号をすべての皆さんに推薦いたします。