希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

子どもが主人公の英語教育と学校づくり

10月5日(土)、和歌山大学教育学部で2013年度第3回和歌山英語教育研究会が開催されました。

講師は、薮 祐梨子 先生 (きのくに国際高等専修学校)、演題は「子どもが主人公の英語教育と学校づくりの中で働く楽しさ」でした。

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子どもの自由で主体的な学びと学校づくりへの参画を尊重する「学校法人きのくに子どもの村学園」は、1992年に和歌山県橋本市でスタートしました。

講師の薮先生は、同学園の小・中学校で9年間学び、卒業後はオーストラリアの高校で国際バカロレアを取得。イギリスの大学、大学院で学んだ後に母校の系列校である「きのくに国際高等専修学校」にお勤めです。

同校の基本方針は、「自己決定」「個性化」「体験学習」。

学校案内によれば、「自己決定」とは「大人がすべてを決める教師中心主義ではなく、自分自身の発想、話し合い、実験、検証、評価などを大切にします」とあります。

私は多くの公立中学校、高校を訪問するたびに、生徒も教師も見えない鉄格子のような規則や規制にがんじがらめにされ、「自ら学ぶ」というよりも「与えられたノルマをこなす」といった勉強の様子を目にすることが少なからずあります。

ですから、きのくに国際高等専修学校の生徒の声を取り入れた柔軟なカリキュラム編成と、体験を重視し、生徒の主体性を最大限に活かした授業スタイルにはたいへん感銘を受けました。

なによりも、教師である薮先生ご自身が講演のあいだ終始笑顔で、「教えることが楽しくて仕方がない」といった気持ちを全身で表現されていたことで、同校の実践の素晴らしさを身をもって示されていました。

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薮先生がお持ちの本は、学園理事長の堀真一郎先生(元大阪市立大学教授)の新著『きのくに子どもの村の教育』です。

堀先生によれば、いま教師に必要なのは、「時間」「お金」「自由」だそうです。
私もそう思います。

教育費必要不可欠な「時間」「お金」「自由」を与えずに、それどころか教員の給与を先進国で唯一引き下げ、時間も自由も束縛しながら上からの「改革要求」を一方的に課すことこそが、現在の教育危機を招いているのではないでしょうか。

さて、同校の英語の授業は週3回(1回100分)で4段階に分かれており、生徒は学年にかかわらず、自分のレベルに合った授業を選択できます。

生徒全員で65人ですから、これが4クラスに分かれると、1クラスあたり平均16人ほどです。
語学教育としては理想的な環境ではないでしょうか。

レベル1では、薮先生自身が教材を生徒にふさわしい作成して授業をしています。

英語のレベルは易しくとも、題材内容は深く考えるテーマを選んでいるそうで、南アフリカの黒人解放運動指導者・元大統領のネルソン・マンデラなどの教材を作成し、同氏を描いた映画INVICTUSを紹介しながら授業をしたところ、生徒から活発な意見が出たとのことでした。

レベル4ともなると、My Big Projectと題して、自分で選んだテーマに関する論文を英語で書いて発表します。

たとえば、「世界政治に疑問を投じる歌詞を書いて音楽アルバムをつくる」「日本映画の翻訳をして、海外の知り合いに見てもらう」など、ユニークです。

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教師が生き生きと創意工夫することができ、生徒が学校づくり、授業づくりに積極的に関与できる。

なにか、教育の原点、学校の原点を見た思いがしました。

今度は、ぜひ学生・院生を連れて同学園を見学したいと思いました。