希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

『英語教育、迫り来る破綻』の読者コメントより(3)

私たちの『英語教育、迫り来る破綻』(ひつじ書房)を読まれた方たちからのメッセージを引き続きご紹介します。

今回の本をあえて薄手のブックレットにしたのは、英語関係者だけでなく、広く一般の人たちにも手に取ってもらい、政府・自民党案のように「大学入試にTOEFL等といった方向でよいのか」、「日本の英語教育をどうするのか」を一緒に考えて頂くためです。

ですから、本ブックレットは、英語に関心を寄せておられる会社員などの方も読んでくださっています。

そうした中から、今回は「北九州で電機メーカーに勤務する48歳のサラリーマン」の方のメールをご紹介しましょう。

前半にはご自身と英語との係わりなどが具体的に書かれてありました。

「米国や英国に長期出張に行ったり、製品のマニュアル類を英訳したり、という業務もあったので、比較的英語力は維持できていたと思いますが、ここ10年以上は直接的には業務上での英語の使用機会はない生活が続いています」とのことです。

その上で、次のようにおっしゃっています。

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英語には少なからぬ関心があり、ひょんなことで貴書とめぐり合ったわけです。
おそらくは、英語教育関係者がほとんどの読者であろうと想像できますが、読後大変な共感を覚えましたのでメールを差し上げた次第です。

小生も文法軽視には全く反対です。
小生は平均的な日本人よりは英会話はできる方だとは思いますが、前述したような外国人(ネイティブスピーカーではありませんでしたが)と触れるチャンスに恵まれたことがきっかけになったものの、その英会話力の成長の大きな力は中高生時代に教えられた文法知識の賜物と実感しています。

英語(外国語)を学ぶのは早ければ早いほどよい、という考えには以前より大反対でしたが、母国語と外国語の学習の仕方は異なる、という本書の指摘に大いに納得させられました。

また、「スピード何とか」でしょうか、巷で流行っているようですが、ただ聴くだけで英会話力が身につくなど、到底信じられません。
小生も痩せている方ではありませんが、飲むだけで痩せるとか、ある種の機械を身体に作用させるだけで、TVを見ながらでも痩せる、といった、努力なしに成果が得られる式のものを全く信用していません。
学問に王道なし、は古今東西不変の真理と信じているからです。

物心つくころには、しっかりと母国語を学ぶべきだと思っています。
藤原正彦氏の「祖国は国語」にも書かれていましたが、昔の海を渡った日本人は会話力は乏しくとも、深い知識と尊厳によって、確固とした日本人として、ただ会話だけできる人間よりもよほど尊敬の念を受けた、とのことです。

何よりも、自分自身の経験として、大学入学後でも決して遅くはないと自信を持って確信します。
というよりは、中学・高校でしっかりと文法を学んだからこそ、このタイミングが良かったのではないでしょうか?

北九州国際交流協会やKIC(九州国際センター)にはホストファミリーの制度があり、我が家はそれらに登録して、時々外国人研修生を迎え入れます。
子供たちが小さい頃から、こうした生身の外国人との交流は良い刺激になるだろう、と続けていることです。
こうした経験が異文化や外国への興味となり、結果として英語にも興味を持ってくれたら、との思いからです。

それにしても、主として途上国の研修生と接していて思ったのは、貴書でも記述されていたように、彼らにはそもそも母国で書かれたテキストもない、という環境が決定的に日本とは異なるのですね。
わが国のこの母国語で全てがまかなえる恵まれた環境が、かえって英語能力の上達を阻害しているのはなんとも皮肉と思います。
そのくせ、巷にあふれる横文字、中には文法的におかしな和製英語などは何なのかな、と思ってしまいます。

国が素人考えのままに英語教育を歪めようとしていることは、貴書によって大変よく分かりました。
しかし、この実態を大衆へ伝えることは大変と思います。
ご指摘のように、大多数の大人が中高6年で学んだのにろくにしゃべれない、このことを英語教育のせいだと思っている限りは伝わらないのではないでしょうか?

小生が考えるのは、大人たちが、ちょっと英文を読んでみようか、あるいは話してみようか、というきっかけがないものか、ということです。
このとき、昔習った(文法の)ありがたみが必ず身にしみるはずです。
タイミング良く7年後のオリンピック、それにインターネットなど、素材には事欠かないでしょう。
大人がもう一度ちょっと英語を勉強してみる、これに尽きるような気がしてなりません。

つまらないことを長々と申し訳ありませんでした。
今後のご活躍を陰ながら応援しております。

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ありがとうございました。

こうした声を頂くと、「続く第二弾も頑張ろう!」と志気が高まります。

日本の外国語教育をより良くするためには、英語教育界だけで小さく固まっていてはいけません。

もちろん、政府のように発言力のあるグローバル企業の代表者の意見だけを聞くのは危険ですが、今回ご紹介したような英語について真面目に向き合っておられる人たちの声を広く聞き、学校英語教育の在り方を謙虚に振り返る必要があります。

その際、反省と修正も大事ですが、継承すべきものもたくさんあります。
すべてを否定すべきではありません。

今回の「48歳のサラリーマン」の方の文章のなかの、「英会話力の成長の大きな力は中高生時代に教えられた文法知識の賜物と実感しています」という一文は、経験から来る重みがあるように思います。