(まずは、つい最近に動きから)
2015年8月24日の読売新聞(電子版)は、「国立大に文系再編の波、26校が学部の改廃計画」と題するショッキングな記事を掲載した。
下村文部科学大臣は2015年6月に、法学部や経済学部などの人文社会科学系と教員養成系の学部・大学院の廃止や他分野への転換を求める通知を出した。
すぐにカネになる学部や研究・教育だけを追求しようというのだろうか。
発想の貧困さと同時に、大学教育の根幹にかかわる問題が、役所の通達だけで実行される恐ろしさ。
「言うことを聞かないなら運営費交付金をカットする」という恫喝のために、しぶしぶ「改革」に取り組まざるをえない大学も少ないようだ。
記事は次のように伝える。
「文系学部のある全国の国立大60校のうち、半数近い26校が2016年度以降、文系学部の改廃を計画していることが、各国立大学長を対象にした読売新聞のアンケート調査でわかった。
教員養成系学部を中心に計1300人以上の募集が停止され、定員の一部を新設学部に振り分けるなどの改革が行われる。国立大の文系に再編の波が押し寄せている実態が浮かび上がった。
(中略)全国立大86校の学長に7月末現在の学部の改廃計画や通知への受け止めなどを尋ね、81校から回答を得た。」
本来なら、国会で議論すべき大問題である。
明治以降の大学政策の大転換なのであるから。
明治以降の大学政策の大転換なのであるから。
しかし、ほとんど議論がないまま、安倍独裁政治が続く。
許しがたい。
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2013年10月から12月までの英語教育界の主な動きを続けよう。
10月 高大接続テストについて答申
10月12日 ELEC英語教育シンポジウムに文部科学省の神代浩・国際教育課長が登壇し、TOEFLの国別ランキングをもとに、かつては「読み書き能力は高いが聞く・話す能力が低い」と言われてきた日本人の英語力が、現在は「読み書き能力も低い」として、「これまでの英語教育の手法全体に問題がある」と総括した。
生徒の英語力については、中卒時の目標である英検3級程度以上、高卒時の目標である英検準2級~2級程度以上を有する生徒が、ともに31%であるとの調査結果を明らかにした(2012年度)。
今後は全国学力・学習状況調査に英語を加え、中3・高3での実施を検討中であると述べた。
10月17日 全日本教職員組合(全教)は「勤務実態調査2012」の結果を公表した。
最も減らしてほしい仕事は「資料や統計作成、報告提出など」の33%だった。
調査は2012年10月に実施され、全国6,879人から回答があった。
調査は2012年10月に実施され、全国6,879人から回答があった。
10月29日 文部科学省は、企業からの財政支援を受けた官民協働海外留学支援制度である「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」の記者発表会を開催した。
2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」と産業界からの意向を踏まえ、2020年までに海外留学する大学生を12万人に、高校生を6万人に倍増する計画。
コースは、①自然科学系分野、複合・融合系人材、②新興国、③世界トップレベル大学等、④多様性人材の4種類。支給される奨学金は月額12~20万円程度、学費助成は上限30万円程度だから、留学先によっては自己負担が重い。
2014年度の採用人数は300人の予定だが、6年間で9万人以上増やす目標からすれば、支援人数があまりに少ない。
10月31日 教育再生実行会議が「高等学校教育と大学教育との接続・入学者選抜の在り方について(第四次提言)」を発表。
大学入試センター試験に代わる「達成度テスト」(仮称)を複数回受験できるようにし、1点刻みの知識偏重の入試から脱却して、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定するとしている。
達成度テストは高校教育の質保証となる「基礎レベル」と、大学入学者選抜等に活用できる「発展レベル」とに分け、TOEFL等の語学検定試験も達成度の判定に利用する。
ただし、細部は未確定で曲折が予想される。
ただし、細部は未確定で曲折が予想される。
この提言を受けて、中教審は2014年3月に高校教育の質の確保・向上に向けた「審議まとめ(案)」と、高大接続の在り方・入試改善等の「審議経過報告」を公表した。
達成度テストの基礎レベルについては、全員一律ではなく、希望参加型試験を年2回実施するとした。(→1月23日)
11月 東京都、3年目の英語教員全員に留学
府立高でTOEFLを活用した授業を担当し、指導方法や教材の開発、他の英語教諭の能力向上を担う。
11月16・17日 中学・高校の英語教員約6万人を会員とする全国英語教育研究団体連合会(全英連)の第63回全国大会が東京で開催され、約1,400人が参加した。
大会コンセプトは「世界で活躍できる日本人を育成する英語教育」。
記念講演はOlha Madylus氏の“Communication and Motivation”で、他に小・中・高の授業実演、分科会、ワークショップなどが行われた。
英語を母語としない生徒を指導するための資格取得を課し、英語による授業法や、生徒に討論を促す方法などを学ばせる。
また、都立高のALTも大幅増員の予定で、2014年度予算に約10億円を計上する。
12月 文科省「英語教育改革実施計画」
12月3日 2012年の国際学習到達度調査(PISA)の結果が公表された。65カ国・地域の15歳約51万人が対象で、日本は前回2009年に比べ、「読解力」が8位から4位に、「科学的応用力」が5位から4位に、「数学的応用力」が9位から7位に上昇した。
少人数指導や脱ゆとり路線が奏功したというが、下位層の底上げが課題だ。
①小学校では外国語活動を3・4年生に下げ、学級担任を中心に週1~2コマ程度。5・6年生の英語は教科とし、「読む」「書く」も含めた初歩的な英語運用能力を養う。専科教員も活用し、週3コマ程度。
②中学校では英語の授業は英語で行うことを基本とする。
③高等学校では授業を英語で行うとともに、言語活動を高度化する(発表、討論、交渉等)。
④小学校における英語教育推進リーダーの加配措置・養成研修。専科教員養成研修、担任教員英語指導力向上研修(3・4年担任約7.1万人、5・6年担任約7.3万人)。小学校英語の教科化に対応する特別免許状の創設。
⑥外国語指導助手(ALT)の配置拡大、地域人材等の活用促進。
⑦先行実施のための教材整備、モジュール授業指導用ICT教材の開発・整備。
⑧高校卒業段階で英検2級~準1級、TOEFL iBT 57点程度以上など外部検定試験を活用して生徒の英語力を検証。大学入試においても4技能を測定可能な英検、TOEFL等の資格・検定試験等の活用の普及・拡大。
⑨CAN-DOリストに対応する形で4技能を評価、小中高を通じて一貫した学習到達目標を設定。
⑩日本人としてのアイデンティティに関する教育の充実(伝統文化・歴史の重視等)。
実施スケジュールは、2014~2018年度が指導体制の整備、英語教育強化地域拠点事業・教育課程特例校による先取り実施の拡大。
2014年秋から中教審で検討を開始、2016年に学習指導要領を改訂、2018年度から段階的に先行実施。
このように、小学校に教科(英語)を新設するなどの重要方針をスポーツイベントに合わせて実施するために、学習指導要領を2年早めて改訂するという。
なぜ急ぐのか。
細部には不整合も多い。
たとえば、「第2期教育振興基本計画」では、高卒段階の目標は「英検準2級程度~2級程度以上」だったが、たった半年で「英検2級~準1級」に引き上げられた。
準1級は英語教員に求められている難易度である。
たとえば、「第2期教育振興基本計画」では、高卒段階の目標は「英検準2級程度~2級程度以上」だったが、たった半年で「英検2級~準1級」に引き上げられた。
準1級は英語教員に求められている難易度である。
さらに高校では、2013年度に始まったばかりの「授業は英語で行うことを基本とする」との方針から「基本とする」を削除し、言語活動を討論・交渉レベルに高める。
耐えられる高校生がどれほどいるのだろうか。
しかし政府はその全額をカットし、さらに10人の教員定数を追加削減した。
人的条件整備なくして「教育再生」が可能なのだろうか。
こうした支援態勢の強化が休職者の減少に寄与している面はあるが、過酷な勤務条件の抜本的な改善が必要であろう。
(つづく)