希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

CEFRの補足版発表で大学英語入試の評価尺度には使用不能に

政府・文部科学省が2020年度から大学英語入試の評価尺度にしようとしているCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の補足版が発表された。

現在の6段階が11段階に増え、評価も5領域から7領域へと拡張される。

CEFR自体が大きく変化しつつある時期に、厳格な公平性が要求される大学英語入試の「評価尺度」としてCEFRを使うことは、ただちに中止すべきである。

以下は、我が「4人組」の盟友である鳥飼玖美子さん(立教大学名誉教授)からの報告メールを参考にさせていただいた。

鳥飼さんは今年8月にイタリア・ヴェネチアで開催された日本語教育研究会国際大会で基調講演をした際に、欧州評議会特別顧問であるMichael Byram氏に会い、2018年春に公開された、CEFRの補足版である COMPANION VOLUMEについてお話しを伺った。

CEFR COMPANION VOLUMEの特徴は以下の通り。

1)参照レベルが一新された。

*Aレベルの下に、"pre-A"レベルを新設。
*A2, B1, B2には、それぞれ “plus➕”レベルを追加。
 "Above C2 (C2以上)"というレベルも追加。

その結果、6レベルだったものが11レベルになり、それぞれがlistening comprehension, reading comprehension, spoken interaction, written interaction, spoken production, written production, mediation(仲介)の7領域に分けて評価される。
 
2)CEFRは「複言語」だけでなく「複文化」主義であることを改めて強調し、mediation(仲介)という、これまでは影が薄かった領域のCan Do 記述文を充実させ、「通訳 翻訳」だけでなく、外国語学習も「仲介」に含め、二つの異なる言語を行き来すること(translanguaging)を重要な能力として加えた。

「言語コミュニケーション活動とストラテジー」は、「reception受容」「production 産出」「interactionやりとり」「mediation 仲介」の4つに大別され、最終目標は「仲介」だとされている。

3)CEFRは、外国語教育改善のために策定されたものであり、標準化に使うツールではない、調整したり監視する機関はない、と明記している。

...it is important to underline once again that the CEFR is a tool to facilitate educational reform projects, not a standardisation tool.
Equally, there is no body monitoring or even coordinating its use.

文科省は「国際標準としてのCEFRルール」に従うと説明しているが、欧州評議会に「ルール」はない。

4)学会ではヨーロッパ各国でCEFRがとのように使われているかというシンポジウムも開催された。

中等教育では最低でも3言語を扱うので、各国の教育省はCEFR準拠の指導要領を策定し、各言語のカリキュラムや評価を共通にしており、日本語も必然的にCEFRに準拠して教育される。

*上で述べたように、欧州評議会は「標準化」はしない方針なので、参照レベルの分け方は各国に任せている。結果として、例えば同じB1レベルでも各国で難易度が違うことがありえる。
CEFRは外国語教育の理念であってレベル分けは中心的な問題ではない、という理解のようである。

*CEFRは複数のヨーロッパ言語を教える際の指標として開発されたもので、特に学習者自身の自己評価を重視していることもあり、厳密どころか相当に緩やかな尺度である。

公平・公正が求められる日本の大学入試に使うことには無理があると判断せざるをえない。

まして今回の補足版の発表によって、文科省が2018年3月に発表した「各資格・検定試験とCEFRとの対照表」(下の図。これ自身がいいかげんなもの)を再検討する必要があり、2020年度からの入試には間に合わない。

イメージ 1

4)日本の政府・文科省は英語「4技能」化を絶対視しているが、CEFRでは4技能についても、「コミュニケーションの複雑な現実を捉えるには不十分」だと指摘し、「CEFRでは4つのモード<受容、産出、やりとり、仲介>を使う」とある。

With its communicative language activities and strategies, the CEFR replaces the traditional model of the four skills (listening, speaking, reading, writing), which has increasingly proved inadequate to capture the complex reality of communication. Moreover, organisation by the four skills does not lend itself to any consideration of purpose or macro-function. The organisation proposed by the CEFR is closer to real-life language use, which is grounded in interaction in which meaning is co-constructed. Activities are presented under four modes of communication: reception, production, interaction and mediation.

「受容」は読む・聞く、「産出」は書く・話す、「やりとり」は書く・話すで、「仲介」を加えると7種類を、Can Do 記述文リストで細かく分けて評価する。

文科省は新学習指導要領でスピーキングに「やりとり」と「発表」を加えたばかりだが、CEFRは「仲介」を盛り込み、すでにその先を行っている。

CEFR COMPANION VOLUMEは、以下から無料ダウンロードできる。
https://rm.coe.int/cefr-companion-volume-with-new-descriptors-2018/1680787989

*2019年1月24日に記事の一部を修正しました。