希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語科における協同学習の原理と実践(9)おわりに

 この連載も、いよいよ本文の最終回です。(次回はブックガイド)

 これからの英語教育に求められることは、生徒が生涯にわたって学び続けることができるための学習の基礎・基本と、持続的な学習動機および方略を身につけさせることである。そのためには、小論で述べてきたように、協同学習を取り入れた授業が効果的であると考える。

 実践で取り上げた高校の生徒は自律した学習者への第一歩を踏み出したにすぎない。中西教諭は、「主体的な学びを促進するプロジェクト型の学習や、生徒一人ひとりの学びを振り返ることができるポートフォリオなどを効果的に授業に取り入れることにより、自律した学習者を育てていきたい」と述べていた。

 日本の英語科、とりわけ高等学校英語科においては協同学習の実践例が少なく、学力差や学習動機も異なることから、小論で述べた授業実践の結論を安易に一般化することはできない。今後、入試という競争的な環境にさらされている「進学校」をはじめ、様々な学校での実践の蓄積と経験の共有化が必要である。

 Less is more.(少ない量で豊かに学ぶ)

 フィンランドをはじめとする教育先進諸国では、教育は「量」の時代から「質」の時代へと突入している(佐藤学和歌山大学教育学部附属小学校(2009)『質の高い学びを創る授業改革への挑戦:新学習指導要領を超えて』p.13)。

 しかし、日本では2008・09年告示の学習指導要領によって授業時数が大幅に増えるなど、「量」の追求へと逆走している。それが、教員と生徒から「ゆとり」を奪っている。学びの質を高めるために、クラスサイズの削減、教員と教育予算の増加、教員養成と研修制度の改善などが不可欠である。それと同時に、協同学習などの新しい授業スタイルを学び、実践していく必要がある。

 また何よりも、英語教材の深さを追求する必要がある。この連載の第4回でも述べたように、協同学習の基本原理である「背伸びとジャンプ」(卓越性)を可能にするためには、語彙や文法・文型といった言語材料の面のみならず、平和、民主主義、人権、環境、言語文化、人間愛など深みのある題材を使用することが重要である。
 そのためには、世界の諸民族と連帯し、平和と民主主義を担う主権者を育てるための英語科教育の目的論が大切である。その目的に沿って、教材論の中の題材論を深めていく必要がある。
 協同学習は指導方法(How)であるから、目的論と題材論(What)と結びつかなければ、真の人間形成に寄与する教育とはなり得ない。この点はいくら強調しても強調したりない。

 生徒が自律した学習者となるためには、教師自身が自律した学習者でなければならない。教師の自律性を高めるためには、協同学習の原理を教師集団にも適用し、「教師の同僚性」を高めていくことが不可欠である。
 まずは自分のクラスから協同学習を実践し、効果を同僚に紹介し、学年へ、学校へと広げていこう。

 百害あって一利なしの習熟度別授業や、競争と格差を助長するような教育政策に従うよりも、協同と平等の「学びの共同体」創りに取り組もう。会議や雑用を減らし、学びの質を高める授業研究会に時間を割くことで、教員として成長していこう。主幹や指導教諭の導入で職員室にピラミッド型の管理体制が強まる中にあっても、教員の平等性と協同性を追求していこう。

 学校は内側からしか変わらない。
 思いつきの域を出ない画一的な「上から」「外から」の教育改革が学校を疲弊させてきた。そんな政策に安易に乗るよりも、自分の学校の実情に即した改革を教員集団が知恵を出し合って実践しよう。その過程に、子どもたちを同志として迎え入れよう。

 教育は希望を語り合うこと。
 協同学習や「学びの共同体」創りの先には希望の沃野が広がっている。

(未完の完)