希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

『危機に立つ日本の英語教育』(大津由紀雄編著 2009)

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大津由紀雄編著『危機に立つ日本の英語教育』(慶応義塾大学出版会、2009.7)
317+12p  ISBN 978-4-7664-1656-5 定価 1800円

日本の英語教育は、どこに向かうのか?
財界(経団連)の要望を取り入れる形で文科省が作成した「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」。そこで示されたプランと「小学校英語」および「TOEIC」ブームとの関連を指摘しながら、英語教育政策の改悪に警鐘をならし、対案を提示する。
本書は、2008年9月と12月に開催されたシンポジウムをベースに、そのパネリストたちが英語教育政策や学校英語教育、小学校英語などの問題点について論じ、今後の指針について提言を行うものである。

<内容>
学校英語教育の現状と課題 「戦略構想」、「小学校英語」、「TOEIC」 / 大津由紀雄
学校英語教育とは何か / 山田雄一郎著
日本の英語教育界に学問の良識を取り戻せ / 斎藤兆史
学校英語教育の見通し / 柳瀬陽介著
日本人は英語が使えなければならないのか? / 津田幸男著
英語教育を取り巻く社会の力学 主権「財界」から主権「在民」の外国語教育政策へ / 江利川春雄著
「戦略構想」への2つの懸念 / 三浦孝著
新しい言語教育へのアプローチ もっと豊かな言語教育を / 古石篤子著
言語教育の全体像を探る試み / 末岡敏明著
教育実践報告 子どもの立場で「言語教育」を / 齋藤菊枝著
さまざまな視点から見た言語教育 言語リテラシー教育の政策とイデオロギー / 佐藤学
複言語主義における言語意識教育 / 福田浩子著
仮想「小学校英語覆面座談会」 / 菅正隆著


本書に対する柳瀬陽介先生(広島大学)の素晴らしいコメントをご紹介します。
英語教育の哲学的探求2

その一部をご紹介します。

この本を、私は9月中旬に発売される『英語教育 増刊号』(大修館書店)の年間書評で取り上げさせていただきましたので、このブログでは完全な好みで私のお薦め所収論文を紹介することにします。それは

主権「財界」から主権「在民」の外国語教育政策へ (江利川春雄)
言語教育リテラシーの政策とイデオロギー (佐藤学)

です。

江利川論文は、具体的データに基づいての社会的・政治的・経済的分析であり、今後の日本の英語教育界での必読論文となると思います。とにかく時流に乗ること、役人の先棒を担ぐことこそを行動規範としているような人が多い日本の英語教育界においてはこのような論考を読むことを欠かしてはいけません(その点で同じく本書に掲載されている斎藤兆史先生の「日本の英語教育界に学問の良識を取り戻せ」という訴えも痛切です)。

佐藤論文は、次の冒頭の文章をお読みいただければ私がこの論文を重要と考える理由もわかってくださるのではないでしょうか。

この30年来、毎週のように学校をまわって、現場の先生たちと一緒に研究授業をしてまいりましたが、近年になればなるほど、英語が最も難しい教科になってしまい、英語の授業を改革することがいかに困難かを痛切に感じています。なぜ難しいのかという理由はとてもはっきりしています。英語の授業に内容(コンテンツ)がないからです。 (240ページ)