希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(30)小野圭次郎の英文解釈(4)

小野圭『英文の解釈』の変遷(2)「ポツダム宣言」を掲載

○ 〔第6改訂〕『新制 英文の解釈研究法』山海堂、1947(昭和22)年7月発行750版。
  巻頭に「第六訂版を出すに就いて」を付す。また、「終戦後の再刊行に就いて」が付いている(1948年5月の753版)。 *未見

○〔第7改訂〕『新制 英文の解釈研究法』山海堂、1951(昭和26)年5月10日第7訂版971版発行。447+24+24頁

僕の手許にあるこの第7改訂版は、残念ながら16頁までが欠落している。そのため、目次や「はしがき」などがない。

冒頭に掲げられてるのは、なんとポツダム宣言の訳し方」である。
前回見たように、戦前版には天皇のために命を捧げよと説く「英訳教育勅語」が巻頭に載せられていたが、まさに180度の転換である。

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巻末の「読者諸君に望む」(昭和21年3月1日付)でも、小野圭次郎は次のように述べている。

「現時の国際に於ては我邦と米英との関係が益(ますます)緊密の度を高め、相互の交渉愈(いよいよ)頻繁となりたれば如何なる職業に従事するにも英語の必要欠くべからざることは言を俟たない。」

この文章は、現代仮名づかいにして次の第8改訂版(1959)や第9改訂版(1966)にも掲載されている。
日本政府の親米路線を前提に、英語を学べと諭しているのである。

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本書の内容構成は以下の通り。

ポツダム宣言の訳し方
上編 英文解釈の研究要素
第一章 総説
第二章 日英語法の相違点
第三章 研究要素二十種(これがこの参考書の本体で24~370頁つまり70%を占める。)

下編 考え方要素の応用・訳し方
第一章 訳し方
第二章 難解な問題の考え方
第三章 特殊な英文の訳し方
第四章 訳文の作り方
読者諸君に望む辞
重要英熟語の小字彙
語句索引

なお、本書の例文は戦前版と同じものが多いが、出題校を削除した例がほとんどである。
戦後の新制大学発足にともなって、学校名が一新されたためであろう。

こうして、小野圭『英文の解釈』は敗戦後の時代の風をつかみ、たくましく復活した。

このあと、苦楽をともにした山海堂を離れ、娘が経営する小野圭出版に版元を移して、さらに進化を続けるのである。

(つづく)