希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

7.11慶應シンポ 英文解釈法の歴史的意義と現代的課題(9最終回)

英文解釈法の歴史的意義と現代的課題(9最終回)

今回も、多くの先行研究のお世話になりました。
主要なものを列挙いたします。
感謝を込めて!

主要参考文献

伊藤嘉一(1979)「現代的英文解釈論」『英語教育』6月号、大修館書店

上井磯吉(1915)「文部省講習会に於ける岡倉教授の『英文解釈法』」『英語青年』1915年9月1日号~同12月15日号まで7回連載

江利川春雄(2008)『日本人は英語をどう学んできたか:英語教育の社会文化史』研究社

江利川春雄(2009)『英語教育のポリティクス:競争から協同へ』三友社出版

小篠敏明・江利川春雄編著(2004)『英語教科書の歴史的研究』東京:辞游社

川本皓嗣井上健編(1997)『翻訳の方法』東京大学出版会

北尾謙治・田中省作(2007)「中学校英語検定教科書の特徴―語彙とリーダビリティの視点から―」(電子版)2007.5.1検索
www.cis.doshisha.ac.jp/kkitao/Japanese/library/handout/2007/LET/5-12.pdf  

斉田智里ほか(2003)「高校入学時の英語能力値の年次推移」STEP BULLETIN 第15号、英検協会

斉田智里(2006)「平成版学習指導要領―外国語編―教育効果の一検証」『教育心理学年報』第45集、日本教育心理学会

外山滋比古(1979)「英文解釈法」『現代の英語教育・5 読む英語』研究社

中島直忠編(1999)『戦前・戦後高等教育機関の英語入試問題の分析』広島大学大学教育研究センター

長谷川修治・中條清美(2004)「学習指導要領の改訂に伴う学校英語教科書語彙の時代的変化」Language Education & Technology 41号141-155頁(電子版)2007.5.1検索
   www5d.biglobe.ne.jp/~chujo/data/let2004.pdf

吉村宰ほか(2005)「大学入試センター試験既出問題を利用した共通受験者計画による英語学力の経年変化の調査」『日本テスト学会誌』第1巻第1号

資料としては

旺文社の『傾向と対策 英語』各年版

旺文社の『全国大学入試問題正解』各年版
研究社の『英語入試問題の徹底的研究』各年版

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(謝辞)資料調査等で協力いただいた斎藤浩一氏(東大院生)に感謝いたします。

附録に、7.11シンポの「登壇者が勧める英文解釈参考書」として、僕は以下のものをお勧めします。
それぞれ過去ログ(英語教育史料)に詳細を載せていますので、ご覧ください。

探せ、お宝! 絶版ビンテージ参考書

参考書は消耗品。日本人の英語力を支えたのに、受験が終われば見向きもされない。図書館にも古本屋にも、ほとんどない。そのためか、近年のオークションでは1冊10万円を超すビンテージものもある。投機のためではなく、あくまで学術的価値の高い英文解釈参考書を年代順に紹介しよう。もしかすると、学校の倉庫や実家の藏にお宝ザクザクかも。

1.  梅澤壽郎『英文解釈法』1903(明治36)年初版
 日本で初めて「英文解釈」を冠した参考書。
本書の「解釈」とは難解な英語を平易な英語にパラフレーズする「英=英解釈」。「英文解釈」=「英文和訳」ではないことを実証する幻の名著だ。超レア本。

2.  南日恒太郎『難問分類 英文詳解』ABC出版(有朋堂)、1903(明治36)年初版
続編の『英文解釈法』1905(明治38)年、『英文和訳法』1914(大正3)年も重要。
 「受験参考書の古典としてまず第一にあげるべきものは南日恒太郎のものであろう」(高梨健吉)。
古書店では別冊の「訳註之部」が付いているかを必ず確認のこと。これが無いと価値は半減。

3.  山崎貞『公式応用 英文解釈研究』英語研究社(研究社)、1912(大正元)年初版
 これも別冊解答編があると超お宝。1925(大正14)年の3訂版から『新々英文解釈研究』と名を変え、1979(昭和54)年の9訂版まで版を重ねる驚異的なロングセラー。
2008年に研究社から復刻されたのは1965(昭和40)年の7訂版だから、これ以外を探そう。

4.  小野圭次郎『最新研究 英文の解釈 考へ方と訳し方』山海堂、1921(大正10)年初版
 親切ていねいな参考書として、英語の苦手な受験生から圧倒的支持を受けた。
戦後も版を重ね、手許にある1966(昭和41)年版の『〔改訂増補〕新制 英文の解釈研究法』(小野圭出版)は第10改訂1047版。怪物参考書だ。小野の文法や英作文などもお勧め。

5.  原仙作『英文標準問題精講』欧文社(旺文社)、1933(昭和8)年初版
 「原仙の英標」として親しまれ、現在も「新装5訂版」(1999)が市販されている。
最大の特色は、入試問題の出典と出題傾向を明示していること。
各版を比較すると、明治から1960年代頃までは、文学的な香りのする散文が高校生に読まれ、入試英文の王道だったことがわかる。学術的にも貴重な資料。

6.  荒牧鉄雄『現代英文解釈』三省堂、1934(昭和9)年初版
 1970(昭和45)年には第4版である『新版現代英文解釈』が出ている。
荒牧はH. E. Palmerが来日すると同時に研究補佐になっただけに、音声指導にも熱心。「英文解釈法は音声を無視している」などと知ったかぶりをする人は、この参考書を手にしてみるがいい。
ただし、荒牧は日本のEFL環境をふまえ、こう述べている。
「まず耳で聞き、口でしゃべるという順序に続いて、読んで、書くという段階に至るのが言語習得の理想的な道程であるが、われわれのおかれている環境からいえば、必ずしも常にこの順序で学んでいるとは限らないし、また、学ぶ量から見れば、発表よりも理解、それも『読む』ことが主になっているのもやむをえないといえよう。」

7.  芹沢栄『英文解釈法』金子書房、1953(昭和28)年初版
 改訂版は1953(昭和28)年、三訂版は1958(昭和33)年で1990年代まで発行され続けた。
行方昭夫氏が『英文快読術』で、良問を載せてある参考書のひとつとして、原の『英標』、朱牟田夏雄の『英文をどう読むか』とともに本書を紹介している。同感だ。
見開き完結のレイアウトも美しい。
芹沢の思想は以下の言葉に集約されている。
「文法や語句の知識が英文解釈に対する準備のすべてではない。文の思想内容にmatchする教養を身につけていなければいわゆる『訳はついたが意味はわからない』という結果に陥る。英語学習は諸科学の学習と並行すべきものである」。同感。
実用一辺倒では企業への「人材」は作れても、「人間」は作れまい。

8.  河村重治郎・吉川美夫・吉川道夫『新クラウン英文解釈』三省堂、1969(昭和44)年初版
『新クラウン英和辞典』などの名品を編纂した河村ら実力派の3人が編んだ名著。
例文の質がきわめて高い。例文は対訳方式で、解説、語句註を合わせて、すべて見開き2ページに収められている工芸品のような美しさ。
ページを開くたびに、僕は恍惚となる。

 * 他にもたくさん紹介したいのですが、それらは本ブログの「英語教育史料」をご覧ください。明治以降の英文解釈や英作文の参考書を豊富な写真とともに紹介しています。