英文の「型」を追求した超ロングセラー参考書
○ 佐々木高政『英文構成法』金子書房、1949(昭和24)年11月20日初版。写真左は1954年3月15日発行の改訂新版(1955年5月30日の通算32版)で3+2+313頁。
写真右は1973年5月31日発行の五訂版(1987年2月10日の通算112版)で、6+355頁。サイズが大きくなり、40頁以上増えている。
佐々木高政は1914年(大正3)年に愛媛県に生まれ、1935年(昭和10)年に東京高等師範学校を卒業。卒業の年に21歳で超難関の文部省高等教員検定試験に合格する秀才だった。同年の合格者には前回紹介した岩田一男もいる。
卒業後は横浜専門学校(現・神奈川大学)や慶應義塾大学予科などで教え、戦後は一橋大学教授などを歴任した。
著作はWikipediaの記事を参照いただきたいが、このリストにないものとしては、太平洋戦争末期の1944(昭和19)年5月に、芥川龍之介の作品を英訳してThe Three Treasures and Other Stories for Children(北星堂)として刊行した。
英語が敵国語とされた太平洋戦争末期期に英語の本を刊行したこともすごいが、わずか30歳前後で芥川作品を英訳して出版した佐々木の英語力はもっとすごい。
英語が敵国語とされた太平洋戦争末期期に英語の本を刊行したこともすごいが、わずか30歳前後で芥川作品を英訳して出版した佐々木の英語力はもっとすごい。
その英語力を駆使した佐々木高政の参考書は超ロングセラーが多く、本書とともに、『和文英訳の修業』(文建書房、1952)、『和文英訳十二講』(篠田錦策と共著、洛陽社、1954)などは現在でも市販されている。驚異だ。
さて、『英文構成法』は、「ある一定の型に従えば誰でもまず正しい文が書ける」という信念にもとづいて、動詞の性質による文構造のパターンを整理し、英文の構成法を丹念に説いている。
佐々木は言及していないが、この発想はH. E. PalmerのSystematic Exercises In English Sentence-Building(英語教授研究所、1938)やA. S. HornbyのA Guide to Patterns & Usage in English〔英語の型と正用法〕(研究社1956)などとも共通している。
佐々木は、本書の性格を次のように述べている。
「本書はあくまで英作文の第一歩、即ち文法的に正しい英文を書くには如何なる語を如何に配置したらよいか、を説くのであって、その次の段階であるhow to write good idiomatic Englishというところまでは手を伸ばしていないのである。」
「本書はあくまで英作文の第一歩、即ち文法的に正しい英文を書くには如何なる語を如何に配置したらよいか、を説くのであって、その次の段階であるhow to write good idiomatic Englishというところまでは手を伸ばしていないのである。」
その意味では、本書の上級編が3年後に出た『和文英訳の修業』(1952)であるといえよう。
『英文構成法』は三部構成。
第一部 修飾語句の並べ方
第二部 文の組立て方
第三部 文と文のつなぎ方とその約(つづ)め方
第一部 修飾語句の並べ方
第二部 文の組立て方
第三部 文と文のつなぎ方とその約(つづ)め方
改訂新版(1954)の目次は以下の通り。
もちろん五訂版(1973)では記述が大幅に改善されていて、「大体は大雑把なことを先に言って順次こまかく規定していくのが英語の癖らしい。カメラのピントをジリジリ合わせていくときの感じである」などという気の利いた記述も追加されている。
もっとも、このピントの譬喩は、オートフォーカス時代の若者にはピント来ないか。(^_^
なお、1954年版では本文の途中に「解答」が付けられていたが、1973年版では巻末に一括されている。
また、前者になかった「索引」が付けられ、親切さが倍増している。
また、前者になかった「索引」が付けられ、親切さが倍増している。
なんと言っても圧巻なのは第二部「文の組立て方」だ。
柔道で言えば「型」に当たる練習だと著者は言う。
柔道で言えば「型」に当たる練習だと著者は言う。
記述の改善ぶりを見るためにも、改訂新版(1954)と五訂版(1973)とを並べて示そう。
解説などが豊富になっていることがおわかりいただけよう。
解説などが豊富になっていることがおわかりいただけよう。
なお、前者は26パターンに区分していたが、後者は24になっている。そのため、構文番号にズレがある。
このように、佐々木高政は語り(ナラティヴ)の名手である。
そのことは、最後の「結び」からもわかる。
佐々木独特の語りの魅力は、たとえば名著『英文解釈考』の序文などでは「感動」の域に達する。
ヘーゲルも『大論理学』のどこかで言っていたが、名人が積年の経験に裏打ちされて語る言葉の重みと説得力は、同じ言葉を若造が語った場合とはまったく異なる。
なるほど、名著の名に恥じない。
60年を超すロングセラーを続けるはずだ。
60年を超すロングセラーを続けるはずだ。