希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

受験英語と参考書の歴史2:戦後の英文解釈を中心に(その2)

日本英語教育史学会秋田大会(2010.5.16)のハンドアウトの続編です。

ただ、ここでお詫びをしなければなりません。
ハンドアウトの段階では、データが不十分でした。未調査の年度がまだあるのです。

そうした事情で、英文解釈問題の変遷に関するグラフは、現時点で全面公開できる段階ではありません。
欠けているデータを急いで国会図書館などで調べ、改めてアップします。
7月11日の慶應シンポ「英文解釈再考」では正確なデータを提供できると思います。

一度ネットに公開すると一人歩きを始めますので、なにとぞお許し下さい。

ということで、はなはだ不十分ですが、レジュメの概要を掲載いたします。

なお、統計的な数字は、いわゆる「主要大学・学部」(毎年100程度)を対象としたものです。

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4. 分析結果

(1)出題分野の構成比(暫定値)

英語入試問題に占める「読解」問題は、1950年代~80年代まで5割前後で推移します。
1970年代にはこの割合が4割台から5割台にアップします。

英作文や文法問題もそれぞれ2割程度であり、驚くほど変化がありません。

面白いことに、「話し方」に関しては1970年代からむしろ低下傾向を示します。
この時期は「コミュにケーション重視」の逆を行ったわけです。

(2)和訳問題の特徴(暫定値)

「全文和訳問題」は、1950年から53年までは上昇を続け、53年をピークに低下に転じます。
ピーク時で6割ほどの大学が「全文和訳」を出題していましたが、1970年代半ばに1割を切ります。

「部分和訳」も1950年代がピークで、約8割の大学が出題していました。
その後は4割台から6割台の間で推移します。
1980年代までは、「全文和訳」のようには絶滅危惧種にはなりませんでした。

後で見るように、文部省は「旧態依然たる英文和訳や和文英訳」の問題を一貫して敵視してきましたが、1950年代前半には、これらの割合がむしろ増加に転じたのです。

こうした事情を、研究社の『昭和31年度大学入試 英語問題の徹底的研究』(1956)は次のように分析しています。

「これら〔英文和訳や和文英訳〕はいわゆる主観的テストとして終戦後一時排斥された時代もあったが、やはりこの方法によらなければ受験生の綜合的語学力を十分しらべることができないというところから、ここ数年来英文和訳和文英訳の形式が大学入試問題の主流となっており、本年もその傾向に何の変わりもない。」(9頁)*強調は原文

もう一つ注意すべきは、国公立大と私立大との出題傾向の違いです。
下の表をご覧ください。

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こうして、私立大では1980年代半ばに「全文和訳」が絶滅します。

かわって、私立では選択問題や完成問題などの「客観テスト」の割合が高くなっています。
1979年の共通一次試験に象徴されるマークシート方式が、この傾向に拍車を掛けたと言えるでしょう。

これらは、必然的に英文の長文化を招きます。

(3)英語問題の長文化

200語以上の長文問題は、1960年代初めには1割程度でしたが、どんどん増え、1980年代には8割にも達します。

明治以来の、短文を精読させ、正確な日本語訳を作らせるよりも、長文を速読し、概要をつかませるだけで和訳はさせない、という方向に進んだのです。

こうした方向が良かったのかどうかは、ここではあえて触れないでおきましょう。

ただ、大切なことは「長文」の概念が時代と共に変化してきたことです。

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これらの変化は、参考書にも大きな影響を与えました。

(つづく)