希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

明治期の小学校英語教授法研究(11)

枩田與惣之助(まつだよそのすけ)の『英語教授法綱要』(1909:明治42年の復刻と考察。
久しぶりの第11回です。

小学校における英語教授法を検討のうち、欧米の主要な教授法の考察を終え、日本における外国語教授法の移入史を考察しています。
今回はその部分の最後。太字の部分です。

第五章 英語教授の方法
  第一節 欧米に於ける近世外国語教授の諸方法
   第一 読書法
   第二 文法法
   第三 テキスト中心法
   第四 暗誦法
   第五 グアン法
   第六 ベルリッツ法
   第七 エナ学校法
   第八 発音法
   第九 革新派
  第二節 本邦に於ける外国語教授の略史
    読書法時代―文法法時代―新式時代
  第三節 英語科各分科の教授
  第四節 英語教授法

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 第二節 本邦に於ける外国語教授の歴史

  読書法時代―文法法時代―新式時代

一、読書法時代
 維新前の蘭学者の徒(いたずら)に用ゐたるは皆読書法なり而して此方法は外山博士の頃まで継続したり、

二、文法法時代
 外山博士はオルレンドルフ、フアスケル、コンタンメー、ナフテル、プレンダーガースト、ドレイスプリング等の教式を研究して、遂に文法を中心とせる正則英語読本 を編し大に正則的教授を鼓吹せり、
時に明治三十年九月頃なり、
 外山正一  英語教授法
 文部省   正則英語読本
明治三十二年四月
 内村鑑三  外国語教授法〔「外国語の研究」の誤記〕

三、新式教授法時代
 明治三十四年十二月
 八杉貞利  外国語教授法
を著して以て、
Dr Sweet: Practical Study of Languages を紹介し、
 三十三年十月  夏目金之助氏英語研究に英国に留学し
〔原著1行空白〕
を著し
 三十三年十月  神田乃武氏英語教授研究として英国に留学し
 三十六年二月  神田読本五巻 を著し、
 三十五年三月  岡田みつ氏英語及英語教授法研究の為め留学し
 三十五年四月  岡倉由三郎氏英語及語学教授法研究のため留学
 三十五年四月  茨木清二郎氏 英語学研究に留学
 三十六年四月  平田喜一氏 英語学及英語教授法研究のため留学
 三十七年四月  永野〔武一郎〕教授 英語学及英語教授法研究のため留学
 三十六年十二月 粟野健次郎氏英語学研究に留学
 三十七年十一月 杉森〔此馬〕教授英語学研究のため留学
 三十八年
 岡倉教授 本邦の中等教育に於ける外国語教授についての管見
 〃    最新外国語教授法
を出して
Brebner: The Method of Teaching Modern Languages in Germany.
を紹介し、外国語教授の面目を改めたり
 三十九年
  The English Teachers’ Magazine
出で
 四十年八月
    文部省夏期講習会(広島高等師範学校にて)
 四十一年八月
    同上(東京高等師範学校にて)
 四十一年七月
    文部省内英語教授法調査会調査報告草案出づ

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【解 説】

「第二節 本邦に於ける外国語教授の歴史」(目次では「~の略史」)では、教授法の発達史に関して、「読書法時代」(江戸時代の蘭学から明治30年ごろまで)、「文法法時代」(明治30年以降)、「新式時代」(明治34年以降)という時代区分を行っています。

しかし、内容的にもいささか無理があり、『英語教授法集成』(1928)では「変則時代」と「正則時代」に変更しています。

はなはだ簡略ではありますが、明治末期にすでに日本英語教育史の研究が行われていたことを示す貴重な記述です。

なお、少し注解しておきます。

八杉貞利述『外国語教授法』(1901)は、イギリスの音声学者Henry Sweetが著した Practical Study of Languages(1899)の事実上の翻訳です。
戦後は小川芳男によって訳され、『言語の実際的研究』(英潮社、1969)として出版されました。

「神田読本五巻」とは、三省堂から発行された神田乃武著Kanda's New Series of English Readers: Revised Edition(1903:明治36年4月13日文部省検定済)のことでしょう。
ただし、同書は改訂版であり、初版は1901(明治)34年2月25日に検定認可を受けています。

The English Teachers' Magazine(『英語教授』)は1906(明治39)年12月に創刊された日本初の英語教師用雑誌です。
1917(大正6)年12月の第10巻第5号まで51冊が出ました。
編集には広島高等師範学校のP.A. Smithが中心となり、杉森此馬、渡辺半次郎、熊本謙二郎、岡倉由三郎らが参画しました。1985(昭和60)年に名著普及会から復刻されています。

このあと、語彙、発音、綴方、講読といった各分科の指導法について考察が進むのですが、これらについては引き続き紹介したいと思います。
ただし、いま新著の執筆に没頭しており、相当先になりそうです。

ということで、「明治期の小学校英語教授法研究」については、しばらくお休みです。