希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

伊藤和夫『新英文解釈体系』(1964)を読む(8)

前期入試が一段落したと思ったら、3月5日(土)の埼玉県熊谷市での講演「英語教育の政策と方法を問う ~競争から協同へ~」のレジュメを準備をしなければならない時期になった。
(いつも直前・・・)

講演といえば、3月29日には経済人や技術系の人たちを前に、以下の講演をさせていただくことになった。(頼まれると、断れない性格・・・やばい!)

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第188回AC・Net 3月例会

・日時: 3月29日(火)16:00-20:30頃
・会場: 大阪新阪急ホテル 「星の間」
     〒530-8310 大阪府大阪市北区芝田1-1-35
     TEL (06)6372-5101

・開会の挨拶  16:00-16:05
・講演1  16:05-16:10(講演者紹介)
         16:10-17:15(講演+質疑応答)
「英語教育政策を問い直す」
講師 和歌山大学 江利川 春雄 教授
 
・講演2    17:15-17:20(講演者紹介)
       17:20-18:25(講演+質疑応答)
「日本人の英語教育 -社内英語化の愚- 」
 大阪大学大学院 成田一 教授

・懇親会 18:30~20:00頃まで 「雪の間」

□主催:AC・Net(情報通信技術研究交流会)

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さて、忙しさの次の津波が来る前に、伊藤和夫『新英文解釈体系』の第3章 基本要素の拡充(2)を急いで紹介しておこう。

この章の目的は、例によって冒頭に明示されている。

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このように、【1】主語としてのthat-clauseから始めて、【12】前置詞+目的語に至るまで全部で12の項目を扱っている。

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大まかに言えば、この章の前半は接続詞によって導かれる節、後半は関係詞または疑問詞によって導かれる節に大別できる。

考察の順序は、第1章、第2章にように、S+V → S+V+X → S+V+X+X という順序にはなっていない。
このあたりの叙述展開については、伊藤の中に葛藤があったことだろう。

圧巻なのは、3章の末尾に付けられた下の文型(構文)一覧表だ。

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この表を示しながら、伊藤は次のように述べている。

「諸君はこの表から、第1章の単純なS+V+〔X+X〕からいかに複雑な文型がみちびかれるか、また逆に、一見複雑な文型もいかに単純な形へと還元しうるかを知ってほしい。」(126頁)

S+V+〔X+X〕という「基本要素」が多様な進化をとげて、複雑な文型へと発展していく様子が一目瞭然となる画期的な一覧表である。

30代の伊藤が到達した、まさに英文解釈「体系」の鳥瞰地図である。
英文の内的秘密を解き明かした伊藤の瞳の輝きが見えるようである。

しかし、この体系構築への熱中が、受験参考書としての致命傷になる。
ちょうどヘーゲルが体系の構築に熱中するあまり、不断に発展し続ける弁証法的な方法を歪めてしまったように。

エンゲルスによるヘーゲル批判が想起される。
「この体系こそは、まさに絶対的な真理の総体だと主張するのである。一切を包括し、終局的に完結した、自然と歴史との認識の体系というものは、弁証法的思考の根本法則と矛盾している。」(『空想から科学へ』第2章)

だが、伊藤和夫のすごさは、自分が打ち立てた1964年のこの「体系」を、絶えざる自己批判によって克服し、乗り越えていったことである。

(つづく)