希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「文法・訳読式教授法」再考

英語科教育法の本を分担執筆することになり,3月末の締切を前に,英語教授法に関する文献を読みまくった。
(3月末は,別の本の原稿締切でもあるのだが・・・)

日本で広く用いられてきた「文法・訳読式教授法」を改めて考えてみたところ,いろいろ面白いことに気づいた。

特に強調したいのは,ヨーロッパでルネッサンスの時代(14~16世紀)から19世紀までの約500年にわたって支配的だったGrammar-translation Method(G-TM)と,「文法・訳読式教授法」とは区別して扱う必要があることだ。

G-TMは,日本ではしばしば「文法・訳読式教授法」と訳され,両者が同一視されがちである。

しかし,「文法・訳読式教授法」は日本で独自の発展をとげたものであり,G-TM(文法・翻訳式教授法)とは区別する必要がある。
この点を明確に実証したのは,平賀優子さんの以下の論文だ。

・「『文法・訳読式教授法』の定義再考」『日本英語教育史研究』第20号,2005,pp.7-26.

・「日本の英語教授法史:文法・訳読式教授法存続の意義」(未刊行,東京大学大学院総合文化研究科提出の博士論文,2008). 
 *これはすごい研究だが,未刊行なのが残念。僕は論文審査委員だったので彼女からもらった。

西洋のG-TMは,相互に意味的なつながりのない短文を翻訳することによって「文法を習得する」ことを主眼にしていた。

これに対して,日本化されたG-TMである文法・訳読式教授法では,意味的につながりのある長めのテキストの読解を通じて「意味内容を理解する」ことを重視してきた。
しかも,授業では程度の差はあれ音声指導なども行っていた。

日本の文法・訳読式教授法は明治末期(1900年頃)に確立した。

その前提となったのが,日本で独自の発展をとげた「学習英文法」だった(これに関する本も,もうじき研究社から出版される)。

文法体系が日本語と著しく異なる英語を理解させるために,日本の英学者や外国人教師たちは,英米の文法書がほとんど叙述していなかった知覚動詞,使役動詞,全否定と部分否定,意味上の主語,時制の一致,無生物主語などを文法体系に組み込み,日本人学習者に最適化した「学習英文法」の体系を確立した。
この点を解明したのは以下の論文。

斎藤浩一(2011)「日本の学習英文法史:「国産」文法項目を中心に」東京大学大学院総合文化研究科『言語情報科学』第9号,pp.81-97.  *斎藤さんは,まだ20代の若き逸材だ。

その学習英文法に構文や熟語の知識を加味して,正確かつ効率よく英文の内容を理解する方法として練り上げられたのが「英文解釈法」である。

そのため,英文解釈法に対しては「日本人の創意と英智に基づき,日本人のために考案された唯一の国産教授法である」との評価もあるのだ(伊藤嘉一『英語教授法のすべて』1984)。

このほか,いろいろ面白い発見があったのだが,長くなるのでやめる。

最後に,Twitterで見つけた記事を紹介しよう。
「広島教採塾 ‏ @kyousaijuku」さんの言葉だ。

文法を軽視する人は、大体、語学は上達しません。誤解しないでくださいね。文法だけを勉強する人も語学は上達しません。でも、繰り返します、文法を軽視して学ばない人の語学はあやふやなものです。日常会話に役立つ表現を何ダースか覚えても、議論も仕事もできません。単なる挨拶マシーンです。