希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

大学の英語授業での協同学習 (2)

前回の「大学の英語授業での協同学習」で,私は以下のように述べました。

「一方的な「講義」をできるだけやめて,学生に問題を投げかけ,グループ(基本は4人程度)で討論してもらい,出た意見をプレゼンしてもらうのです。」

これに対して,以下のようなご質問をいただきました。
たいへん重要な内容ですので,ここで回答させて頂きます。

「知識の伝達(知識量の多さ)をどうするかという,教師の悩み(良心)があると思います。ペア・グループでの討論をさせたいが,知識はどう伝えるのか,知識が少ない中での議論は有意義なのか?このことに関して,江利川先生はどのようにお考えになられているでしょうか。」

高校,とりわけ,いわゆる「進学校」と呼ばれる学校で協同学習がなかなか浸透しない理由のひとつも,この「知識の伝達(知識量の多さ)をどうするかという,教師の悩み(良心)がある」ようです。

大事なことは,授業にのぞむ前に,学生が授業の学習課題を自覚し,事前に準備してくるよう仕向けることではないでしょうか。

つまり,ほぼ毎回の授業をグループによる一種のプロジェクト型で行うわけです。

ここでは,私の「英語科教育法」(半年間)の授業の例でご説明します。

1. まずセメスター(半年間)の授業の流れをシラバスで示しておきます。インターネット上でいつでも閲覧可能です。

2. 次回の授業はもとより,数回先までの授業の内容,課題,用意しておくべき事柄を,授業内で適宜プリント等を配って確認します。(シラバスだけではだめです。)

3. 次回の授業で討論やプレゼンを行う課題については,前の授業までに資料を配り,関係資料を各自が調べて持参してくるように,また意見をまとめてくるように指示しておきます。

特にディベートの場合,事前の仕込みが大事ですから,資料を準備するなどの用意をしてこなかった学生は参加を禁じ,見学してもらいます(そう伝えておけば,まずサボりませんが)。

それらによって,何月何日の授業ではどのような課題があり,どんな準備をしておかなければならないかを学生たちは自覚します。

4. 課題とは,たとえば,「Show and Tellの演習」,「授業は英語で行うことは是か非かのディベート」,「英語による指導案の作成」,「模擬授業」,「パワーポイントを使った英語教材作成」,「日本の英語教育の現状と問題点(特に学習動機と学力の低下問題など)に関する討論」などなどです。

だれでも,事前に準備してくると,その授業が楽しみになるものです。
授業こそが,最大の自己表現の場になるからです。

そのせっかくのチャンスを,受け身的な「講義」でつぶしてしまってはもったいないと僕は考えています。

5. 以上をまとめると,講義で述べるべき内容を事前に資料等で示しておき,読んで考えておいてもらうわけです。
授業では,それにもとづいて討論や「答えのすり合わせ」を行い,その結果をふまえてプレゼンします。

教師はその意見をもとに,さらに深みに導くように学生に問いを投げ返し,あるいは補足し,さらに深めてもらいます。
学生の発想は柔軟なので,予想外の意見表明があったりして,教師にとってもとても勉強になりますよ。

いま新しい院生が来ていますので,以上,取り急ぎ。