大谷先生が実に40年以上にわたって書き続けてこられた珠玉の異言語教育論が,時評と書評を中心に,このように見事な1本にまとまって公刊されましたことを心からお慶び申し上げます。
これは混迷する日本の英語教育界にカツを入れ,問題の本質がどこにあるかを考えさせる好著です。
全体は3章からなります。
読後感を一言で申し上げるならば,大谷泰照先生は日本の英語教育界の行く手を照らす「灯台」であるとの思いを強くしたことです。
本書を読むと明らかなように,先生は約半世紀にわたって,ブレることのない批判精神で,日本のみならず世界の教育政策をも視野に入れた大所高所から,暗礁だらけの英語教育海を照らし,警鐘を鳴らし,私を含む後進に行く手を示し続けてこられました。
その持続する意志に驚嘆しました。
とりわけ学ぶべきは,先生の実践に裏打ちされた以下の方法論,というよりも研究姿勢です。
「わが国の教育,とりわけ異言語・異文化理解教育の本当の姿は,ただひたすら現状を凝視することによっては決してみえてこない。むしろ,以上のような歴史的視点と国際的視点,いわばタテ軸とヨコ軸の2つの視点を踏まえて点検してみることによって,はじめてその姿はいくらかでも鮮明に浮き彫りになってくるはずである。」(320ページ)
英語教育研究者はますます狭い領域にタコツボ化し,英語教員は増え続ける仕事に追い立てられ,英語教育(異言語教育)を成り立たせている政策や教育条件までなかなか眼が行きません。
しかし,本書は執拗なまでに日本の教育政策,とりわけ異言語(外国語)教育政策の貧困さと,教育条件の劣悪さを告発し,警鐘を鳴らし続けています。
その際に,しばしば諸外国の教育政策や教育条件とが正確なデータを添えて比較されることによって,日本の問題点が浮き彫りにされています。
それをヨコ軸とすれば,明治以来の歴史にまでさかのぼってのタテ軸的な考察もなされています。
しかし,先生のように,壮大な「タテ軸とヨコ軸の2つの視点を踏まえて」この国の教育,とりわけ異言語・異文化理解教育を論ずることは,言うは易く行うは難しです。
私自身,少しでも大谷先生に近づけるよう,精進して参りたいと思いました。
愚かしいまでの現在の英語(異言語)教育政策を転換させるためにです。
本書を心から推薦します。