希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

中学生に授業しました

10月24日、和歌山大学に来てくれた中学3年生たちに授業をする機会がありました。

「現場感覚」を忘れないためには、英語科教育法を講じるだけでなく、自分自身が中学生、高校生を相手に実際に授業をしてみることが大切なので、こうした機会は本当にありがたいです。

しかも、今回は先方から出向いてくれたので、とても助かりました。

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異文化理解に関する授業でした。

日本のアニメ作品を例に、英語版や中国語版との比較を通じて、共通性と違いを確認し、なぜ違うのかという文化背景を探るものでした。

ネタのすべてを明かすことはできませんが(笑)、たとえば日本アニメの中国語版は次のような表記になります。

オリジナルの作品名がわかりますか?

① 幽霊公主

② 怪医黒傑克

③ 航海王

さて、正解は後回しにして、続きです。

魔女の宅急便」では、いよいよ魔女の修業に出発するキキに対して、お父さんが次のように言います。

「どれ、私の小さな魔女を見せておくれ」

さて、この「魔女」は、英語版では何と訳されているでしょうか?

witchなどと直訳してはいません。

なんと、princessと訳しています。

なぜでしょう?

日本人の魔女に対するイメージと、キリスト教社会でのwitchに対するイメージとが大きく違うからです。

どのくらい違うでしょうか?

たとえば中世ゲルマン民族の法律では、「クソ野郎!」と言ったら120デナリウスの罰金でした。
(デナリウスは農民の1日の平均賃金)

では、「魔女」と言ってしまったら?

なんと7,500デナリウスもの罰金を科せられ、この一言で人生は終わりです。
(出典:『へんなほうりつ』2007)

ルパン三世カリオストロの城」のラストシーン。
そう、クラリス姫がルパンに愛の告白をするあの名シーンでは、日本語版と英語版のセリフがまるで違います。

日本語版では、クラリスが「私も連れてって。泥棒はまだできないけど、きっと覚えます。 私、私・・・ お願い、一緒に行きたい」と言い、あとは静かにルパンの胸に顔をうずめます。

この「・・・」(沈黙)に万感の思いが込められ、クラリスの清楚なイメージが象徴されています。

でも、英語版では・・・・ああ!

このシーンの間、日本語版では沈黙が過半数の53%。

なのに、英語版では沈黙はたったの10%で、残り90%は自分がいかにルパンを愛しているかを延々と主張するのです。

おっと、ネタバレしすぎですね。(^_^;)

さて、最初の質問の正解です。
何問できましたか?

① 幽霊公主は「もののけ姫」です。
 幽霊→お化け→もののけ。中国起源の漢語を大和のことばにおきかえていくことがポイントです。

② 怪医黒傑克は「ブラック・ジャック

③ 航海王は「ワンピース ONE PIECE

子どもたちは、③→②の順でわかったようで、①はやや難問でした。

日本は中国を中心とした漢字文化圏に属していますので、発音が違っても内容は理解できるのです。

小さな島をめぐって争うことなく、相互理解と恒久平和を追求したいですね。
そのためには、どうしたらいいかを考えましょう。
考えるためには、学びましょう。

と、授業を締めくくりました。