希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語都々逸の魅力

ずっと欲しかった「英語都々逸」(えいごどどいつ)の本を入手した。

ウィキペディアによれば、都々逸(どどいつ)は、江戸末期に初代の都々逸坊扇歌(1804年-1852年)によって大成された口語による定型詩
七・七・七・五の音数律に従う。五字冠りと呼ばれる五・七・七・七・五という形式もある。
元来は、三味線と共に歌われる俗曲で、音曲師が寄席や座敷などで演じる出し物であった。
主として男女の恋愛を題材として扱ったため情歌とも呼ばれる。

たとえば、斎藤秀三郎の『和英大辞典』(1928)に登場する次の都々逸などは有名。

惚れて通えば 千里も一里 逢えずに帰れば また千里(作者不詳)

英語都々逸の本は数種類確認されているが、今回入手した『英語都々逸』は表紙に「金随堂梓」とあり、見返しには「英語都々一 / 長谷川貞信画 / 金随堂綿屋梓」とある。

CiNiiで検索したが、全国の図書館での所蔵は確認できない。

裏見返しには、「書物画草紙問屋 / 大坂北ほり江市場 綿屋徳太郎版 / 同心才橋塩町角 綿屋喜兵衛版」とあるから、大阪で発行されたようだ。

私の所蔵本には「江州 圡橋藤* 山本」と「衣笠文庫」の印が押されている。
江州とは近江国で、現在の滋賀県のこと。

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作者不詳で、発行年も書いていないが、おそらく明治初期(明治4年=1871年前後)ごろの刊行ではないか。
このころ、世は明治新政府の文明開化政策で空前の英語ブームだった。

都々逸という江戸時代の町人文化と、英語とが出会った時代の面白い文化史料である。

本書の前半は漢語都々逸で、後半が英語都々逸である。
全18丁だが、都々逸研究を専門とされる菊池眞一先生の研究によれば、「菊池は二本を所有しているが、共に、八丁・十二丁・十四丁が欠けている。これは後に欠けたのではなく、初めからこういう仕立てだったのではなかろうか」とのことである。
http://www.kikuchi2.com/dodo/index.html

手許の本を見ても、たしかに上記の3丁が欠けている。

内容の一部を見てみよう。

菊池先生の研究に従って、本文の右注(ルビ)は[ ]の中に入れ、私が推測した英単語を記す。
意味を示す左注は( )の中に入れて示す。

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びつくりしたナイ [ない night](夜に)
気がどきつくよ
思はずラープ [らあぷ love](うれし)と
いふてから

このモルニング [もるにんぐ morning](あさがらす)の
からすを夜ると
スリトプ [すりとぶ sleep または sleptか?](寝すご)さしたよ
うれしさに

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ラープ [らあぷ love](うれし)とおもふて
苦をすればこそ
アイ [あい eye](目に)立 [たつ] リンリ [りんり 不詳 lineか?](ほそ)に
気もつかず

レーン [れいん rain](あめ)も粋 [すい] して
ふりつゞくこと
わたしのためため
テール [ている tear](なみだ)ほど

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末のブヒミス [ぶひみす promise](やくそく)
さへちがはねば
ヱンナイト [ゑんないと one night](ひとよさ)ぐらいと
おもふても
*「ブヒミス」は「プロミス」の誤読ないし誤刻か。

宵にやラープ [らあぷ love](うれし)い
初会の人も
モルニング [もるにんぐ morning](けさ)は恥かし
つみなぬし

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などと、なんとも艶っぽい情歌が多い。

江戸と明治がせめぎ合う過渡期の時代。

だが、男女の情景は、いつの世も変わらないのか。