希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「日本人の英語学び史」史料目録(1)

2012年10月20~21日に、和歌山大学教育学部を会場に、日本英学史学会第49回全国大会(和歌山大会)が開催されました。

その企画の一環として、資料展観「日本人の英語学び史」を開催し、300点の資料を展示しました。
過去ログ

その折には、学生・院生に手伝ってもらいながら史料目録を作成しました。

編 集
江利川 春雄(和歌山大学教育学部教授)
青田 庄真(和歌山大学教育学部4回生)
川嶋 光太(和歌山大学大学院修士課程)

もとより大会準備の傍らの作業ですから,不十分なものです。
また、今回展示したものはすべて江利川の所蔵品ですので、貴重書でありながら手許にない資料もたくさんあります。

しかし、このまま「目録」を埋もれさせてしまうのは惜しいとの声もいただきましたので、増補改訂の上、本ブログで紹介します。

本当は、それぞれに画像を付けて図録風にしたいのですが、とてもそんな時間的余裕はありません。
それらは、老後の楽しみということでお許しください。

ただ、展示資料のかなりは,私たちが作成してインターネット上で画像を公開しています。


なお、各資料について先人による解題がなされているものについては、できるだけそのまま掲載させて頂きました。

イメージ 1

資料展観「日本人の英語学び史」目録

はじめに

この目録は,日本英学史学会第49回全国大会が和歌山大学教育学部で開催されることを記念して,幕末以降の日本人がどのように英語を学んできたのかを跡づける基本資料を展観するための簡略なガイドとして作成されたものです。

展示スペースの関係で,教科書等を除き,原則として複数巻冊のものも1冊のみを展示しています。

資料は以下のジャンルに分けて展示されています。

1. 幕末~明治初期の英学文献
2. 和歌山ゆかりの英語教材
3. 学校・人物関係資料
4. 英語教授法・指導書
5. 英語辞書
6. 英語学習参考書
7. 英語雑誌・通信教育テキスト
8. 明治前期の舶来英語教科書
9. 明治後半~大正期の国産英語教科書
10. 小学校用の英語教材
11. 戦時下~敗戦直後の英語教材
12. 周辺諸国の英語教科書(参考)

【凡例】
一, 旧字体は,人名を除き原則として新字体に改めた。
一, 人名の敬称は省略した。
一, 資料解説では,資料番号,著者,資料名称,発行者,制作年代,備考,解説の順に表記した。
一, 解説に用いた引用や参照は紙幅の都合上,参考書目の執筆者名のみとした。部分的に引用したものや改変したものも,原則としてその旨を記していない。

イメージ 2

1. 幕末~明治初期の英学文献

1 箕作元甫『改正増補 蛮語箋 巻二』江都書林,1857(安政4)年
 蛮語とはオランダ語のこと。蘭和の簡略な単語辞書である。

2 福沢諭吉訳『増訂華英通語』,快堂蔵版,1860(安政7)年
清人の子卿原著『華英通語』を福沢諭吉が訳し『増訂華英通語』として1860<万延元>年に出版。諭吉が咸臨丸で米国に渡り,サンフランシスコで手に入れた単語集である。原書は英単語の下に音注,右に中国語訳がある。福沢はさらにカナをふったもの。(中略)発音のところはオランダ語から脱却していないところが多いが,訳語はかなり自由訳をしてある。福沢の初期の著作である。」(高梨健吉)

3 小嶋雄齋訳『商用通語』超海堂藏版,1860(安政7)年
交易に必要な日本語を、和蘭語(オランダ語)、英吉利語(イギリス語)、亜墨利加語(アメリカ語)でカタカナ表紙している。たとえば、「気にいらぬ」は「ノーライキ」「ミスハーゲン」。「運上役所」は「コストム、ハウス」、「カントール」。全国の4つの図書館に所蔵が確認されている。

4 柏原屋平兵衛・多田屋善九郎『日本外国商人独通詞』柏原屋平兵衛・多田屋善九郎,18--(?)
交易に必要な日本語を、オランダ語、英語、中国語(南京人)の3カ国語でカタカナ表記している。発行年は不詳。渡辺登喜雄『江戸から明治 英学の暦誌』(私家版、1974)によれば、「天保ごろ(一八三九)のものではないだろうか」というが、疑問。荒木伊兵衛『日本英語学書志』には『和英言葉ノ通シ』(刊行年不詳)の再版だという。全国の3つの図書館に所蔵が確認されている。

5 石橋政方『英語箋 巻一』椀屋喜兵衛,1861(文久1)年
「本書は嘉永元年(1848)の「改正増補蛮語箋」に準拠してそのオランダ語を英語に改めたものに他ならない。また,本書はオランダ語を媒介としたという意味で,英語米語に対する直接の接触に基づく「英米対話捷径」や「和英商売対話集」などよりも前の英語学の流れを継ぐものである。

6 コル子ル『地学初歩』,渡部氏蔵版,1865(慶應1)年
内容は「CORNELL’S PRIMARY GEOGRAPHYと殆んど同じである。ところどころ記述にわずかな差異が見られるが,要旨において変わるところがない。」(日本英学資料解題)

7 足立梅景『英吉利文典字類』伊月邨舎蔵梓,1866(慶應1)年
本書は「開成所刊行の『英吉利文典』によったものである。修養語数1500語を,英単語・品詞名・訳語の順に挙げ,配列は語頭2文字によるalphabet順で,簡易辞書の形式である。品詞の区別や文法的性格を注意している点や巻末に不規則動詞変化表を載せているところなど,文法と単語が学習目的にかなうようになったことを示すものとして注目される書物である。」(出来成訓

8 開成所『英吉利文典 (The Elementary Catechisms. English Grammar. Fifth Edition)』開成所,1866(慶應1)年
本書はタイトルにFifth Edition at Yedo, 1866.とあり,即ち開成所板英吉利文典の第五版である。慶應三年(1867)に六版が出ている。また,学習者の書き込みから奇異な学習方法が窺われる。(荒木伊兵衛

9 Noël, Chapsal『法朗西文典 上』柳河長蔵,1866(慶應2)年
幕末のフランス語文法教材。江戸幕府はフランス語にも力を入れていた。

イメージ 3

10 Pyl, R. Van Der『英吉利会話篇』渡部温蔵版,1867(慶應3)年
オランダ人ファン・デル・ペイルの英語入門書の会話の部から英語だけを取って翻刻した会話書。

11 石川彝(寧靜齋)『英学入門 The First Primer, for the Use of the School Shoobunkwan』寧靜齋藏板,1869(明治2)年
表紙には手書きで「英学入門」とあるが,奥付には「The First Primer, for the Use of the School Shoobunkwan」とあり,いわゆる「修文館英語読本」であると思われる。本書を一見してすぐに分かることは,Websterの系統に属する書であるという点である。Websterの冒頭の一部分を用いて一冊の入門書に作り上げたものであるが,原典の意図を十分に把握しているかは怪しく,原典の良さが十分活かされていない。(日本英学資料解題)

12 官許忍藩洋学校訳述『邂行独学』写本,1870ごろ(?)
毛筆でアルファベットの各字体を書き写し、赤い梵字サンスクリット語)で発音を記しているものもある。忍藩は現在の埼玉県行田市付近にあった。この版からは青木輔清が出ている。

13 格賢勃斯『格賢勃斯 英文典直訳 巻之上』写本、1870ごろ(?)
大学南校訳の写本と思われる。

14 青木輔清『横文字独学 英学部二編上』中外堂,1871(明治4)年
本書は初編1冊・二編2冊・三編2冊から成る「横文字独学」全5冊の中の1冊である。(日本英学資料解題)

15 志水洋游訳『ウェブストル氏著スヘールリングブック 挿訳綴字書 第一篇』東京便静居蔵,1871(明治4)年