希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

中学校英語教員の手記

定年退職されたあと、再任用の英語教員として公立中学校の教室に立つ先生から、素晴らしい手記をいただきました。

中学3年生でアルファベットも正しく書けない生徒が予想外に多く、「英語があまり好きではない、嫌い」が56%も。

それでも、この先生は「みんなが卒業するまでに全員英語を好きにさせます」と宣言したのです。

やがて手応えを感じていきます。

「この子たちの心の学力は最高だ」、「この心があれば学力は伸びる」

そして、最後にこう語ります。

「ああ、教師っていいなあ」

英語が好きで得意な子だけを相手にすることは難しくないかもしれません。

しかし、義務教育は「1人も見捨てない」教育なのです。

そうした実践に真剣に取り組んでおられる先生たちを、教育行政はどうか支援してください。

「授業は英語で行うことを基本とする」などといった上から目線の方針を押しつけて、地道な教育実践の手足を縛るようなマネはしないでください。

以下の手記は、固有名詞を割愛したほかは、すべて原文のままで、ご本人の了解を得ています。

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一年ぶりに再任用フルタイムで4月から働き始めました。私はS市の中学校に勤務しております。
所属は3学年副担。持ち時間は3年英語20時間(5クラス)と総合1時間(この総合とは主に担任が行うので、4月から私はまだ総合を1時間も持っていません。)
校務分掌は美化(委員会)。部活は陸上部で、5年目の先生と2人で担当しています。

再任用と言っても仕事は他の教員と全く同じで、できたら部活は免除してもらいたかったのですが、世の中そう甘くはありません。最低でも月に土日2回は出なければなりません。今日も午後から県大会に出る生徒を、他の市のオールウェザーの競技場に連れて行き直前調整を行います。

英語の授業も約2ヶ月が過ぎました。
この3年生は1,2年時に臨採の先生に教わったため、3年間で3人の先生から教わるというとても不幸な生徒たちです。毎年変わる教え方に、4月も当然戸惑っていたことと思います。

4月最初にアンケートを採りました。「英語があまり好きではない、嫌い」を合わせると、その数は何と56%!

基礎学力診断テストで生徒の実態調査をしました。
アルファベットを出題したら、MとNの順序が逆な生徒が1クラス3名から多いクラスで8名も!(受験者約180名中23名!)。すでにアルファベットからつまずいていた?

他にもUの次のVが何故か抜けていたり(結構いました。どうしてでしょうか)、小文字はさらにひどい結果で、q の代わりにQを書く生徒や、何よりも特徴的だったのは4線の中に伸び伸びと小文字が書けず、やたら縮こまっているのです。jは下まで伸びない文字がたくさんありました。

不思議なこともありました。自分の名前はほとんどの生徒が書けていました。何故でしょう?

このような生徒たちに私は大胆なことを宣言してしまいました。
それは、、、「みんなが卒業するまでに全員英語を好きにさせます」と。

自信などありません。はったりです。何とかしなければ、と思っただけです。

でも生徒の中にはそのことばに惹かれた生徒もいたようです。何とかしたいと思っている生徒はいるのです。

授業は1,2年の復習を交えながら始めましたので進度はかなり遅く(S市内で私が一番!)、そのため塾などで話題になり、心配して校長に電話をしてくる親も現れました。

その不安を解消するため、ある日英語通信で私の教科書の教え方を説明しました。
その中で再度強調したことは、「とにかく3ヶ月は我慢して私についてきてくれ」でした(親にも言ったつもりです)。

それから2ヶ月が過ぎました。生徒はどうなったでしょうか。

チャイム着席は滑り込みセーフの生徒がかなりいますが、全員揃います。
途切れることがなかった私語もほとんどなくなりました。

ペアワークは大好きで、セクション毎の単語句の練習では教室に生徒の声が千葉のU先生のメールのように「響き渡り」ます。英語の歌も楽しく歌います。

4月から行っているペアワーク全員試験も、約70ペアが合格(残りあと20ペア位かな)。
やっと少し光が見えてきた感じです。

低学力の学校ですが、この学年の子どもたちはとても人なつっこいのが特徴で、強面の私の前にはこれまで生徒が集まってくるということは(1年生を除けば)あまりなかったのですが、この学校では違うのです。

ある日の授業の終わりには女子生徒が5,6名、私の周りに普通に集まってくるので、私は心が穏やかではありませんでした。

そして今、しみじみと思うのです。「この子たちの心の学力は最高だ」と、そして「この心があれば学力は伸びる」と。

この生徒たちと出会えたことが、最高の喜びです。

再任用で懐具合は寂しくなりましたが、この歳になっても英語を教えることができる喜び、生徒と笑顔で接することができる喜び、生徒の夢を共有することができる喜び、いろいろな喜びを感じながら、ヘトヘトになりながらも思うのです。

「ああ、教師っていいなあ」と。

昨日は中間試験が終わりましたが、ディクテーションテストの誤答を1つ紹介してこの報告を終わります。
Ken and I have been good friends since April.

この文のhave beenの所をhappyと書いている生徒が多かった(29人。happingなども含めると40人近い)です。確かにそう聞こえますよね。

常日頃から生徒に言っていること、それは「間違いを大切にしようね。間違いは消すなよ。どうして間違えたか考えるんだよ」と。

この歳になり、生徒からいろいろと学ばされ、脱皮し続けている毎日です。

大変長くなりました。
ではまた。

(おわり)