希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

明治期の小学校英語教授法研究(1)

小学校英語というと平成の発明品のように誤解している人も多いのではないだろうか。

ところが、実際には明治期からかなりの小学校で行われていた。
開設率の全国平均はピーク時の1930年代で10%程度だった。
(詳しくは、江利川春雄『近代日本の英語科教育史』2006、東信堂の第5章参照)→Amazon

では、小学校教員を養成した師範学校では、どんな「小学校英語教授法」を教えていたのだろうか。

というわけで、ここでは枩田與惣之助(まつだよそのすけ:1882~1960)の『英語教授法綱要』(1909:明治42年)をとりあげたい。
(枩田については江利川春雄『日本人は英語をどう学んできたか』(2008、研究社)の第4章参照)→Amazon

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『英語教授法綱要』は、彼が愛媛県師範学校(現・愛媛大学教育学部)の生徒に配布した手書きの謄写刷プリント84葉(168ページ)で、京都の枩田家に1セットだけ残された類例のない資料である(図)。
僕が知る限り、このような明治期の授業プリントが完全な形で残されていることは奇跡だ。

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だから、そっと隠し持っておこうとも思ったのだが、心の広い僕は、「いや、公開しちゃえ!」と思い直したしだい。(紙媒体では、完全版を『和歌山大学教育学部紀要』に連載予定。)

第1回は「目次」。
歴史を重んじ、たいへん体系的であることがわかる。

 英語教授法綱要

     目次
         序言
第一章 本邦に於ける英語の略史
  第一節 本邦洋学の略史
  第二節 本邦に於ける英語の略史
第二章 本邦小学校英語科の略史
第三章 欧米の小学校に於ける外国語科
    英国―独国―米国―白国(ベルギー)―蘭国(オランダ)―丁国(デンマーク)
第四章 本邦小学校英語科の目的
  第一節 近世外国語教授の一般的目的
  第二節 本邦に於ける外国語教授の必要
  第三節 本邦小学校英語科の目的
   第一 法令上及理論上より見たる本邦小学校英
      語科の位地
   第二 本邦小学校に英語と限定せる理由
   第三 本邦小学校英語科の目的
   第四 本邦小学校英語科の設置
   第五 本邦小学校英語科の教授時数
   第六 本邦小学校英語科教授児童の編成
第五章 英語教授の方法
  第一節 欧米に於ける近世外国語教授の諸方法
   第一 読書法
   第二 文法法
   第三 テキスト中心法
   第四 暗誦法
   第五 グアン法
   第六 ベルリッツ法
   第七 エナ学校法
   第八 発音法
   第九 革新派
  第二節 本邦に於ける外国語教授の略史
    読書法時代―文法法時代―新式時代
  第三節 英語科各分科の教授
   第一 語彙(ヴオカブラリ)
   第二 発音
   第三 綴字(スペリング
   第四 講読
   第五 作文
   第六 文法
   第七 聴取及書取
   第八 会話
   第九 習字
   第十 参考
   第十一 各分科の排合
   第十二 教科書論
  第四節 英語教授法
   第一 一般原理
   第二 教授の段階
   第三 教授の様式
   第四 教案(省略)
第六章 英語教授と他教科との関係
  第一節 緒論
  第二節 英語教授と国語科との関係
  第三節 英語教授と修身科との関係
  第四節 英語教授と歴史科との関係
  第五節 英語教授と地理科との関係
  第六節 英語教授と理科との関係
   第一  理化
   第二  博物
  第七節 英語教授と手工図画科との関係
  第八節 英語教授と美術科及商業科との関係
  第九節 英語教授と唱歌科との関係
  第十節 附説
第七章 参考書(省略)

  〔教案例〕
  〔第一 英語教授の第一時〕
  〔第二 稍進みたる教授〕
  〔教案〕

(以下、続く)