希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(2)2つの高等英文解釈研究

日本語とは著しく言語的距離が離れている英語をどう理解するか。
この問題を解決するために、明治以来の先人たちが工夫し開発してきた技術が「英文解釈」法である。

コミュニケーション(というか英会話)中心の昨今は、旧式の「文法訳読式」とみなされ、すこぶる評判が悪い。
だが、日常英語ではなく、多少とも深い思索をへて書かれた英文を読む場合、「英文解釈」を抜きには理解に達しないだろう。

そうした英文解釈の参考書は明治30年(約100年前)ごろからたくさん出ているが、ここでは戦後直後の2つの「高等英文解釈研究」を取り上げよう。

戦後のアメリカ英語に対応した英文解釈書

1冊目は藤井光太郎『新制 高等英文解釈研究』南海堂、1948(昭和23)年10月18日発行(初版)

イメージ 2 イメージ 1

この年の4月に新制高校が発足したから、書名の「新制」はそれにちなんだもの。
構成はきわめて個性的で、冒頭の第一編は「分詞構文 with+名詞+(現在分詞、過去分詞、形容詞、形容詞句)の構文、動名詞」から始まる。こんな出だしの参考書は見たことない。

なぜ分詞構文から始まるのか。
著者の「序」によれば、「with+名詞+(現在分詞、過去分詞、形容詞、形容詞句)の構文は最近盛んに用ひられてゐるのであって、これらの構文を理解して置かないと、現代の英文を読破することは難しい」からだという。
敗戦占領下でアメリカ英語がどっと入ってきた状況を考えてのことらしい。

文例も当時としては画期的な「New York Times Overseas Weekly等から選んだ」という。
したがって、時事的な英語が多く、下の例などは冷戦開始期のドイツ分割をめぐる緊迫した動きを伝えている。戦時下で視野を狭められた若者たちに、世界情勢への関心を喚起させようという意図だろうか。(クリックすると拡大します)

イメージ 3


上級者向け英文精読の名著

2冊目は成田成寿『高等英文解釈研究』研究社出版、1951(昭和26)年9月1日初版、1967(昭和42)年11月20日第23版

イメージ 4


成田は外務省の語学研修所で英語通信添削講習の上級を担当していた。
本書は、そこで出題した問題を中心に、成田が編集長をしていたこともある雑誌『英語教育』(現在は大修館から発行)に掲載した英文解釈練習問題などから編集されたもの。

イメージ 5


文学や知的な評論文を中心に、文字どおり「高等」な内容。
しかし、1960年代末までは好調に売れ続け、需要が高かったのである。
訓詁学的ともいえる厳密な註釈、正確に錬られた訳文。
これこそが、戦前からの正統的な英語の学び方だったのである。

これらを「時代遅れ」で済ませるだろうか。
いまTOEFLで日本人のスコアが低下しているのは、読解と文法だという。

低下しているのは、英語力だけではなく「知性」と「思考力」なのかもしれない。

古い参考書が提起するものは、意外と新しいようだ。