希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(27)小野圭次郎の英文解釈(1)

伝説の小野圭次郎「英文解釈」シリーズに迫る

小野圭次郎(通称「小野圭」)の英文解釈書について述べるには、「ふー」と深く息を吸い込み、「がっ!」と気合いを入れる必要がある。

それほど、小野圭は気安くは扱えない。

まず、先行研究が少なくない。なかでも、速川和男先生立正大学名誉教授)による論文「英語学習参考書の研究 ― 英文解釈参考書の系譜 (1) 小野圭次郎」(『日本英語教育史研究』第5号、1990)は、きわめて詳細に論じている。

なので、本連載では速川論文などとの重複はなるべく避け、小野圭「英文解釈」の進化に焦点をあてて見てみたい。

小野圭次郎は1869(明治2)年に福島県に生まれ、福島師範学校を出て小学校教師を7年務め、一念発起して東京高等師範学校英語専修科に入学、1900(明治33)年に卒業した。
その後、福島、福岡、愛媛、三重の各県師範学校や中学校教諭を歴任し、松山の北予中学校(愛媛県立松山北高等学校の前身)に在職中の1921(大正10)年に、同郷の山海堂社長に頼まれて執筆したのが『最新研究 英文の解釈 考へ方と訳し方』で、わかりやすいと評判で空前の大ヒットとなった。
その後、1930(昭和5)年に教職を辞して上京、各方面の受験参考書を次々に発表し、「小野圭」の参考書シリーズとして売れに売れた。その後、松山高等商業学校(松山大学の前身)の教授も務めている。
1952(昭和27)年に83歳で小野圭が病没後も、遺族は「小野圭出版社」を立ち上げて販売を続け、1970年代までロングセラーを続けた(速川氏は1976年まで確認している)。

さて、その小野圭の参考書群だが、1966(昭和41)年時点での広告を見ると、「小野圭英語双書」(ただし、表紙には「小野圭英語研究叢書」)として23種類が確認できる。

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このうち、まず英文解釈に絞って考察していきたい。
手許のものを年代順に並べてみた。

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左から順に次のようになる。

(1)『最新研究 英文の解釈 考へ方と訳し方』山海堂、1921(大正10)年9月5日初版発行、1923(大正12)年4月15日訂正29版。

(2)『増訂新版 最新研究 英文の解釈 考へ方と訳し方』山海堂、1935(昭和10)年増訂426版(初版からの通算、以下同じ)。

(3)『新制 英文の解釈研究法』山海堂、1951(昭和26)年5月10日第7改訂971版。

(4)『〔改訂増補〕新制 英文の解釈研究法』小野圭出版社、1959(昭和34)年7月20日第8改訂1020版。

(5)『〔改訂増補〕新制 英文の解釈研究法』小野圭出版社、1966(昭和41)年11月25日第10改訂1047版。

このように、発売から45年間で少なくとも10回は改訂されたことがわかる。

それにしても、トータルで1000版を超えているのだから、さすがに伝説の「小野圭」である。
これに匹敵する英文解釈書といえば、山崎貞の『(新々)英文解釈研究』(研究社、1912~1994頃)くらいしかないのではないか。

さて、次回からは、いよいよ小野圭『英文の解釈』の中身を見ていきたい。