希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

日本英文学会の謎

日本英文学会といえば、日本の英語界を代表する学会だ。
1917(大正6)年に、東大教授・市河三喜を会長として発足した東京帝国大学英文学会をルーツとする。→Wikipedia

なにを今さら、「謎」などあろう。

ところが、このほど名古屋の古書店から入手した資料を見ていたら、なんと1887(明治20)年には「日本英文学会」が発足していたのである。本部は京都府上京区。会長は桃谷翁(とうごくおう)。

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この『語学自修誌』の表紙には、ご丁寧にも「日本英文学会本部印」まで押されている。ホンモノだ。

僕が入手したのは同誌の第3号(明治20年7月31日発行)、第4号(同年10月3日発行)、第5号(同年12月7日発行)、第8号(明治21年5月27日発行)、第9号(同年6月17日発行)の5冊。

国会図書館にも全国の大学等図書館(Webcat)にもないし、藤井啓一の『日本英語雑誌史』(1953)にもまったく記載がない。
謎の団体なのだ。

内容は、当時よく使われた『ウェブスター・スペリングブック』や『ナショナル・リーダー』などの訳注が中心。ドイツ語の教材も掲載されている。

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面白いのは、「会長書習字手本」や「会長述英語学独習新法」(↓)などが載っていることだ。当時の教授法・学習法を知る上で興味深い。

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どうもこの資料は、会員に郵送された通信教育教材のようだ。
第4号に会誌の送付が遅れたことを会員に詫びる文章が付いている。

その通信教育機関の名前が「日本英文学会」だったのである。

なんとも大それた名前だが、明治期の通信教育機関には、1898(明治31)に創設された「大日本英語学会」や、1906(明治39)年に創設された「大日本国民英語学会」もあった。
当時の「学会」は、英語の「学習者たちの会」でもあったのである。

だから、日本英文学会とは、「英文を学ぶ者の会」という意味で、エライ人の集まりではなかったのだ。
こんな「学会」って、いいな。

*これにて、本年のブログは終了です。
 みなさん、よい新年をお迎え下さい。