希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(10)青木常雄の英文解釈書(その2)

英文解釈の完成をめざすハイレベル参考書

青木常雄の英文解釈参考書(その2)

今回は単著の『英文解釈の研究』培風館、1955(昭和30)年9月20日初版発行、写真は1960(昭和35)年4月20日の初版第16刷。1962(昭和37)年には改訂版も出ている。

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「本書は先に著された『英文法精義』・『英文解釈精義』・『英作文精義』の三部作よりさらに一歩進んで、英文解釈を完成しようとする人々のために新しく編さんされた」とある。

つまり上級者向けであり、「高校二三年から大学初級の学生を対象」としている。
「受験が終わったら、はいさよなら!」というものではなく、大学に入っても英文解釈の勉強を続けることが意図されているのだ。

この点は、現在の大学生もぜひ引き継いでほしい。
英語専攻の学生でさえ、英語で書かれた専門書がなかなか読めないからだ。
ヘタをすると、90分の授業で半ページしか進まないことすらある。
そんなときには、説教をしたり、イライラ待つよりも、こうした英文解釈の指南書を着実にやるように指導した方が効率的ではないか。

いま流行のリメディアル教育(高校レベルのやり直し)にも、こうした親切な参考書が活かせると思う。

さて、この参考書の「はしがき」には、珍しく作成過程や青木常雄の本音が書かれている。

(1)材料の収集
青木の弟子筋に当たる沢正雄(都立新宿高校)、大里忠(大泉高校)、林卯一郎(向丘高校)、本多俊男(栃木県立鹿沼高校)の4氏に材料の収集を依頼したとある。

この本多俊男先生から、1971年ごろ、僕は栃木県の小山工業高等専門学校で英語読解の授業を受けた。
厳しい先生で、訳せなくてビンタをもらった級友もいた。
夏休みの宿題は、青木常雄との共著の『精選基礎英文解釈問題集』(修文館)を1冊全部訳して提出、という壮絶なものだった。エアコンもない時代、ランニング1枚で汗だくになりながら、ひたすら訳したことを覚えている。提出した訳文は、分厚いレポート用紙1冊では足りなかった。(あれは、しんどかったなあ。)

(2)編集
「すべて私〔青木〕の責任である。四十何年かに亘る学生の指導を顧み、とくに近年の高校および大学の学生たちの英語学習の実際を凝視しつつ、必要な知識を与え、必須な練習を課するに最適の材料を選択し、最も理解し易いように配列し、最も記憶し易く応用し易いように解説したつもりである」とある。
確かに、まるで講義録のような文体で書かれており、わかり易い。
ととえば、冒頭は「まず『主語』・『目的語』・『補語』を見抜け」という生徒に直接訴えかけるタイトルである。

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(3)企画から出版まで
「約三ヶ年。幾度かスランプに陥りかけた」とある。こんなことを書く参考書の著者は珍しい。
青木は指導の厳しいことで有名だったが、スランプもある普通の人間だったのだ。(^_^;)
参考書の「著者」には大家が名前だけ貸す例も少なくないが、青木は実際に筆を執ったようである。

全体は四部構成。

第一編 基本構文の研究
第二編 品詞を中心として
第三編 特殊構文
第四編 パラグラフの解釈

最後の「パラグラフの解釈」が特徴的である。
戦後の入試問題が長文化していく下で、「文と文とのつながりを明らかにしつつ筆者の思想の流れを追ってゆかねばならない」として、実に懇切丁寧な解説を加えている。

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本書を改めて読み直して、僕はひとつの確信に到達した。
こうした英文解釈の良書を、現在の大学生の英文読解力向上に活用すべきであると。

TOEICの問題集など、やめよう。
あれでは真の実力は付かない。
ウソだと思うなら、この青木の参考書と比較してみるがいい。

1980年ごろから、日本の(特に高校の)英語教育は「退化の段階」に入ってしまった。
文科省(というか財界)の「コミュニケーション重視」(はっきり「会話重視」と言え!)によって。

英会話を必要としない日本国の英会話中心主義。
その「おかしさ」に気づくべき時期ではないか。