希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(19)高村勝治『解明 英文解釈』

1月は1年で最も忙しい月だ。
年度末の授業に加え、院生の修論指導に学生の卒論指導。
それも終わり、今日は授業もなかったので年休をとった。といっても、明日土曜日に実施される推薦入試業務の代休だが。

おかげで今日は、今年1年の研究計画を文章化し、頭の整理をすることができた。
こんなゆったりした時間が、たまには欲しい。
この前の土日は、休日返上で卒論指導をしたし。

それやこれやで、「懐かしの英語参考書」にとりかかろう。

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前回が「チャート式」だから今回は「シグマ・ベスト」。ともに参考書の有名ブランドだ。
文英堂の参考書にはみな「シグマ・ベスト」が冠されている。
同社のホームページによれば、「Σ(シグマ)は数学記号で「総和」の意味であり、BEST(最上)の総和ということは、文英堂刊行物の一冊一冊が“学ぶ人それぞれにとって最良の内容”であって、その総和がシグマベストシリーズであることを示しています」とある。なるほど。

高村勝治『解明 英文解釈』(文英堂、1966)
 *写真は1969(昭和44)年3月5日発行の第6刷

英文解釈から英米文学の文体研究へ

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著者の高村勝治ヘミングウェイをはじめとするアメリカ文学の大家だ。
東京文理科大学英文科を1940(昭和15)年に卒業し、同大学研究科(大学院)を中退して1941(昭和16)年10月に同大助手、戦後も新制東京教育大学となった母校にとどまり、1964(昭和39)年に教授となった。

大家の場合は、ときに名義貸しの場合が少なくないが、「本書は、著者が多年にわたる英文学研究と著作活動の経験をもととして、過去数か年間の全国大学入試問題を分析研究して書き上げたものである」と書かれている。
「はしがき」にも、「本書は、英文解釈の力を基礎から完成まで、段階的に養えるように、苦心して書き上げたつもりである」とある。高村が実際に書いたようだ。

本書の特徴については、以下のように述べられている。
「全編を通じて、英文解釈のコツともいうべきものが、随所に織り込まれてあり、また、あらゆるジャンル(種類)、あらゆるスタイル(文体)の英文を取り扱ってあり、長文解釈に重点をおいて、例題・演習問題ともに、できるだけ長文を取り上げてあるので、諸君が、この1冊を完全にものにしたときには、いかなる英文を、どこから攻められても、ビクともしないだけの実力が備えられ、横文字に対するなんともいえない不安もふっとんでしまうであろうと確信する。」

これで1文だ。長い。高村は自分の思いを一気に書いたのだろう。
たしかに、この参考書にはアメリカ文学者である高村の個性がよく出ている。
「本書の特色と利用法」および「目次」の全文を示そう。

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本書の一大特徴は「第2部 解釈の錬成」である。
高村自身が誇らしげに語っているように、第3編では英文がジャンル(種類)別に分類され、(1)物語・伝記文、(2)随筆文、(3)紀行文、(4)文芸評論文、(5)社会評論文、(6)科学評論文、(7)詩に至るまで、それぞれの読み方のコツが伝授されている。

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続く第4編は「代表作家の作品研究」となっている。
戦後の入試問題にもよく登場した(1)モーム、(2)リンド、(3)ラッセル、(4)ハックスレー、(5)T. S. エリオット、(6)オーウェル、(7)ヘミングウェー、(8)スタインベックが取り上げられている。
まさに、英文解釈から英米文学への橋渡になる参考書だ。

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最後の第5編は「総合問題研究」で、「大意要約を主とした総合問題」と「文法設問・内容設問を主にした総合問題」が扱われ、これまでの和文英訳にとどまらない新傾向の問題群(その多くは長文の総合問題)への対処法が書かれてある。
入試傾向の変化に対する目配りも完璧だ。

なるほど、高村が豪語するように、「この1冊を完全にものにしたときには、いかなる英文を、どこから攻められても、ビクともしないだけの実力が備えられ、横文字に対するなんともいえない不安もふっとんでしまう」という気になる。

先日、4回生から「大学院の入試を受けたいので英文読解の勉強法を教えてほしい」という相談を受けた。
本来なら、英語で書かれた英語教育の専門書を勧めたいところだが、試験日まで時間がない。
だから、「大学受験で使った難し目の英文解釈問題をやり直しなさい」と勧めた。

僕の脳裏には、この高村勝治著『解明 英文解釈』が浮かんでいたのかもしれない。

(2010.4.3追補)