希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(18)2つの『チャート式英文解釈』

鈴木進・今関敦著『チャート式シリーズ 英文解釈』(1972)
荒木一雄編著『チャート式シリーズ 構文中心 新英文解釈』(1978)

英語に進出したチャート式の実力

「チャート式」と聞いて、「ああ、むかし使ったな」と思う人は多いだろう。
赤と黄色を基調とした表紙、上質の紙でちょっと重い定番の参考書。

「チャート」とは航海で使われる「海図」のこと。
難問にどうアプローチしてよいかわからない悩める生徒を救うべく、この参考書は航海における海図のように進路をを示してくれるというわけだ。実にありがたい名前。

チャート式シリーズの歴史は古く、最初の『チャート式数学』が発行されたのは1926(大正15)年のこと。版元の数研出版は、その名の通り数学などの理系を得意としていた。

そのため、『チャート式シリーズ 英文解釈』の1972年版(写真左)には「数学・理科で好評いただいているCHARTを英語の分野にも取り入れました。問題を解くポイントになる要素を短文にまとめ解法の道すじをさし示すものがCHARTです」と書かれている。
さすがに、1978年版(写真右)にはそんな説明はない。チャート式がしっかっりと英語にも定着したということだ。
なお、チャート式の英文解釈には、他に「激ムズ」の山内邦臣編集『詳解英文解釈法』(1981)もある。

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まずは、1972年版の『チャート式シリーズ 英文解釈』

表紙には慶應義塾大学教授の鈴木進著としか書いていないが、「はしがき」によれば、鈴木が書いたのは第1編と附録などだけで、第2編~第4編(つまりほとんど)は今関敦(当時、都立豊島高校教諭)が執筆した。

今関敦先生には日本英語教育史学会で何度もお目にかかったことがある。
先生は1951(昭和26)年に東京高等師範学校文科三部(英語科)を卒業。入学直後から生活のため英語学校「わかば外語」を設立し、早稲田の五十嵐新次郎教授などが出講したという。卒業後は都立高校教諭を経て湘南工科大学教授や調布学園短期大学教授などを歴任された。
詳しくは、「私の英語教育史ー思い出の記ー」『日本英語教育史研究』第16号(2001)を参照されたい。

さて、この1972年版は古き良き教養主義の香りが残っている。
表紙と裏表紙の裏にはそれぞれ「イギリスの作家群」「アメリカの作家群」が載っている。
英語学習と英米文学とが切り離せなかった時代の最後の残照と言えるだろうか。

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第1章の「英文解釈とは」も「文化的背景の知識」から始まっている。
「英文解釈=ことば+文化的背景」と赤字で記しているのがすごい。
そういえば、このチャート式を始め、1970年前後に参考書の二色刷化が進んだ。

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本編でもCHARTの部分をはじめ、二色刷の効果が遺憾なく発揮されている。

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この初版は、1976年に9刷を数えている。

次に1978年版の『チャート式シリーズ 構文中心 新英文解釈』

編者は荒木一雄(名古屋大学教授)
ただ、実際の執筆者は次の3名。
森塚文雄(大阪外国語大学教授)
江河 徹(立教大学教授)
小野経男(名古屋大学教授)
また、協力者にLewis Allen Davisの名前があがっている。

1972年版にあった英米の「作家群」は、「重要構文表」に変えられてしまった。
そういえば、タイトルも「構文中心」と謳っている。

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旧版にあった「文化的背景の知識」なども消え、すべての章が文法項目にしたがって構文パターン別に構成されている。トータルで112の構文が扱われている。
きわめて機能的だが、旧版のような文化的・教養主義的な香りが消えたのは時代のせいだとあきらめるしかないのか。

それに、なぜかCHARTというコーナーがなくなってしまった。チャート式なのに・・・

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この『新英文解釈』は1978(昭和53)年の初版以来ずっと版を重ね、2006(平成18)年には第52刷に達している。まさにロングセラーだ。

CHARTというコーナーは消えても、これからもずっと悩める高校生の「海図」として、進路を照らし続けてほしいものだ。