希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英作文参考書の歴史(5)メドレー・村井『註解新和文英訳』(1918)

最強の英作文コンビによる名参考書

○ Medley, A. W.・村井知至『註解新和文英訳』泰文堂、1918(大正7)年6月20日
英語タイトル:Aids to Translation from Japanese into English.
緒言2+目次3+脚註目次6+本文227+索引20+解答編94=352頁

 *写真は1935(昭和10)年10月30日第60版
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戦前の中等学校用の英作文教科書として最も広く用いられたのが、Medleyと村井知至(ともよし)のコンビによる泰文堂版の教科書で、「村井・メドレーの英作文」として親しまれた。

その抜群の知名度と信用を誇る2人が出した英作文参考書が、この『註解新和文英訳』(1918)である。ヒットしないはずがない。

2人は東京外国語学校の同僚だった。
Austin William Medley (1875-1940)はロンドン生まれで、1906(明治39)年に来日し、それ以来34年間にわたって東京外語で教えた。
とりわけシェークスピア劇の講読では俳優のような朗読が評判で、外語の名物教授となった。
愛弟子の一人は岩崎民平(元東京外大学長)である。

村井知至(1861-1944)は松山藩愛媛県)に生まれ、1884(明治17)年に同志社を卒業。1888年から1893年まで米国で神学を学んだ。
1899(明治32)年に東京外国語学校教授となり、1920(大正9)年の退職まで務め、その後は明治大学で教えた。1923(大正12)年には第一外国語学校(予備校)を創設し、校長となった。

さて、『註解新和文英訳』の特徴を見てみよう。

(1)トピック別の構成
 「日常用句」「学校」「入学と卒業」外国語」というふうに生徒の目線で22のトピックが展開していく。これはテーマ別の自由英作文にも便利である。
なお、例題の合計は472である。

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(2)脚註欄で、特に注意すべき英作文の「公式」を説明している。
その合計は204に及び、トピック別ではありながらも、英作文に必要な公式はしっかりマスターできるようになっている。

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(3)ていねいな解説と索引
簡潔にして親切な註解や解説がほどこされている。
20頁におよぶ索引も学習に便利である。

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 解答例も2つ以上用意し(ときには4つも)、多様な表現に対応している。

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時事的な文章も交え、ホットな話題を提供している。
たとえば、「軍事」の426番は以下のような例題である。

「露国は革命に革命をつぎて目下は過激派が主権を握り独逸に対してロンドン協約を無視し単独講和を計画しつつあり。」

ロシア革命で「過激派」(=ボルシェビキ)が権力を掌握したのは1917年10月(新暦11月)だから、この参考書が刊行されるわずか半年ほど前のことである。ホットだ!

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このように、この参考書は日常生活から世界情勢に至るまで、トピック別に英語の表現力を高めるように工夫されている。

長期の米国留学で鍛えた抜群の英語力の村井。
英国人ネイティブでありながら、長年にわたって日本人学生の指導に当たってきたメドレー。
この最強のペアによって、きわめて完成度の高い参考書に仕上がっている。

この時期のものとしては珍しく、入試の出典をまったく明記していない。
それでも、生徒たちの心をとらえて放さない魅力が、本書にはある。