希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

幻の左翼英語教本『プロレタリア英語入門』(1932)

本日6月11日は、脱原発世界同日アクションの一環として開催される「原発いらん!関西行動 第2弾―関電は原子力からの撤退を」の日。

御堂筋をデモするのは学生時代以来。わくわく。
で、出発前に大急ぎでレアな資料を紹介します。

松本正雄著『プロレタリア英語入門』鉄塔書院、1932(昭和7)年5月25日発行、定価1円30銭、本文200頁。

なぜか、国会図書館にも、全国の大学図書館にも所蔵されていない幻の英語教本だ。
左翼本は発禁などの弾圧を受け、所持するだけで危険だったから、ほとんど現存しないのかもしれない。
そうなると、公開したい気持ちがムクムクと湧いてくる・・・(^_^;)

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本書が発行された1932(昭和7)年と言えば、いわゆる「昭和恐慌」に「世界大恐慌」(1929)が追い打ちをかけ、資本主義の矛盾が一気の露呈した時期。

日本でも左翼運動・共産主義運動が大いに高揚した。
そうした、この時期の社会運動に呼応した外国語教育のムーブメントとしては、エスペラント語の普及活動がよく知られている。

しかし、「プロレタリア英語」という社会教育的な英語教育運動については、これまでほとんど知られてこなかったのではないだろうか(神戸正美「明治の社会主義者と外国語学習」などの論考はあるが)。

さて、まず著者は「自序」で、「英語自習書のうちで、多少ともプロレタリアートの必要を顧慮し、それに応じて仕事を進めた」と述べている。

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「本書の性質と学び方」では、「一般の語学自習書は、盛りだくさんで、大ていはじめの数日でいやになるか、またいやにならないまでも、実際中絶の止むなきに至るものが多い。本書では、だからなるべく暗記的部分を少なくして、記述的説明部分を多くした」とある。

大人相手の語学学習法としては当を得ていると言えよう。
だから、この本は読み物としてもとても面白い。

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本文は冒頭からアジテーション調である。↓

しかし、いま読むと、「原子力村」の人々や、電力業界、政府、御用学者たちのウソとペテンに対して、科学や学問のあり方を問い直しているようにも読める。

書物は時代とともに読み直され、再解釈されるものなのだと思う。

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「発音練習」の部分でも、プロレタリアに身近な単語が並ぶ。

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「文例」は、さすが「プロレタリア英語入門」というだけある。
英語の例文を通じて、マルクス主義の教育を行おうという意図を感じる。

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最後の19章、20章はいよいよ仕上げで、「アヂ太」「プロ吉」による輪講会という設定になっている。
二人を合わせると「アジプロ」。
agitation+propagandaの略語で、扇動と宣伝という左翼運動の用語。
本書も、アジプロ活動の一環だったと思われる。

当然ながら、英文の題材を通じて、労働者階級に革命的精神を喚起しようとしている。
最初の例文はマルクス資本論』のエッセンスのような内容だ。

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英語教育の「目的」とは何なのだろう。

「グローバル時代の人材育成」か、「共産主義世界革命」か。

いま、この時代の中で、誰のための、何のための英語教育か。
その根源的なことを考えさせてくれる本だ。