希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

黒田巍・吉田正俊『全講英文法』(1957):なつかしの英文法参考書4

前回紹介した太田朗『英文法・英作文ー整理と拡充ー』(1956)では、「文章論〔統語論〕を先に展開し、文構成の要となる動詞について徹底的に分類・解説し、それから名詞に始まる品詞論を展開している。/この点でも、本書は明治期・岡倉由三郎以来の東京高師ー東京文理大ー東京教育大の学統の上に築かれた快著だと言えよう。」と書いた。

この視点は、日本における、特に戦後における学習英文法の発達史を見る上で、きわめて重要だ。

こうした統語論や動詞を名詞から始まる品詞論の前に置いた先駆的な参考書を、さらに紹介したい。

同じ東京高等師範ー東京教育大関係者である黒田巍(たかし)と吉田正俊の共著『全講英文法:現代英米文法の新研究』(山田書院、1957)だ。

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ただし、30分後には関西空港に出発するため、駆け足での紹介となることをご諒解いただきたい。

まず「はしがき」を見てみよう。

ここで英米の古今の文献から広く著名な作者の実例を集めて、随所に用例としてあげたことなどは、ひそかに誇る特長である」と書いている。
将に、この点が本書の大きな特長だ。

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「本書の読者に」にも重要な指摘がある。

第一に、「文法体系を動詞中心にしたこと」だ。
ここでは、「英文法書といえば大てい名詞の種類からはじまる単調さを避けるため、また文法において占める動詞および動詞に準ずるものの重要さから、とくに動詞に関する説明を本書の前半に置いて、品詞よりも動詞中心の構文にあててこれらを詳しく述べた」とある。

その他、古典的な作品からの豊富な引用、アメリカ語法や現代口語の導入、レベル別の記述、海外の研究成果の紹介など、古典と現代とが融合した個性ある参考書である。

目次から優れた展開を想像いただきたい。

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本文の冒頭を見てみよう。

最初の例文は、Pippa Passes.で、Browningの詩からの一文だ。
この詩Pippa Passes.は、戦前の英語読本の定番教材で、戦時中に刊行された準国定教科書の『英語』(1944)にも掲載されていた。

続いて、LongfellowのLife is short.

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その後のページも、英米文学や諺などからの引用のオンパレードだ。
すごい!

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コンピュータ・コーパスのなかった時代に、これほどの例文を精選するのには、文学に対する深い教養に基づく用例の蓄積がなければならない。

これも、東京高等師範ー東京教育大の学統だといえよう。

英文法の学習を通じて、英米文学の世界にいざなう。
これも英語教育の一つの方向性なのだ。