希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「日本人の英語学び史」史料目録(2)

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さて、2012年10月20~21日に、和歌山大学教育学部で開催された日本英学史学会第49回全国大会(和歌山大会)での資料展観「日本人の英語学び史」の展示目録の第2回です。

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15 志水洋游訳『ウェブストル氏著スヘールリングブック 挿訳綴字書 第一篇』東京便静居蔵,1871(明治4)年
アメリカ人WebsterのSpelling Book(展示資料番号196・199)は日本でも明治前期に広く用いられ、その独習書(独案内)の類も多数発行された(私の手もとにも約30冊ある)。本書はその初期のもの。

16 橋爪貫一『世界商売往来(正,続,補遺)』,鴈金屋清吉,1871/72/73
日本に小学校が創設されたのは明治6年。『世界商売往来』は、そのとき小学校の教科書として、文部省制定の「小学校則」に指定された。教育の面からみると、『世界商売往来』は初等教育の語彙を知るうえで欠くことのできない文献であり、頭書にある英語との対訳は注目すべきものである。また、語彙の面から見ると、開化期の言語の実態,また訳語を知るという観点から興味深い資料である。(飛田良文・村山昌俊『世界商売往来用語索引』)

17 海軍兵学寮『英学新式 巻之二』,海軍兵学寮,1871(?)
「簡単な英文法を教えるに併せて,和訳・英作文の練習をも意図したと思われる教科書であるが,その対象は教師であったと思われる。」(日本英学資料解題)

18 大野九十九[編]訳『解体学語箋 A Anatomical Vocabulary』文部省官版,1871
日本で最初の専門用語(解剖学)英和辞典。医学教育がドイツ語中心になる前の貴重な資料。現在の古書価は20万円くらいだろうが、かつて古書市で70万円ほどの値が付いたものを見たことがある。

19 著者不明『英字訓蒙図解 全』西京書林,1871.11
本書の内容はアルファベットの読方,単語には総て面白い絵を入れて発音を示している。日本人はイラスト付きの単語帳が好きだったようで、明治初期と明治20年前後に各種出ていた。本書はその初期のもの。読み仮名や綴などにも誤りが多くみられる通俗本。

20 中村敬太郎(正直)訳『自由之理』木平謙一郎,1871(1872?)
明治初年の啓蒙的翻訳書。原書はイギリス功利主義の思想家J.S.ミルのOn Liberty(1859)で,中村正直1871年(明治4)に翻訳し,翌年刊行された。中村の人格・学識と相まって,明治前半の青年知識人の必読書となった。本書はルソーやスペンサーの著書とともに自由民権思想の形成に最も大きな影響を与えた書物の一つで,河野広中は本書を読んで〈心の革命〉を起こし,自由民権運動家になっていったという。(世界大百科事典第2版)

21 訳者不明『通俗英文典(上)』,文泉堂,1872
本書はT.S.Pinneoの英文典の全3巻から成る全訳である。通俗的な学習参考書であるためか、訳者は明記されていない。Pinneoの文典の訳としては、明治3年の『英文典直訳』があるが、原文を欠き,訳だけを記したものである。本書の意義は独習参考書として発音注や逐語訳返り点を備えたところにある。しかし,訳文としての達意には欠けるところがあり,『英文典直訳』との類似点が認められる。(日本英学資料解題)

22 吉田庸徳『訓蒙英学指南 初篇』回春楼蔵版,1872.09
アルファベットの読み方を示したものであるが,とくに発音(たとえば母音音節の変化,変音)に詳しい。上部には木版画を挿入して,英単語を説明してある。(日本英学資料解題)

23 浦谷義春訳『英学捷觧:一名, リードル独学』森本太助等,1872.07
本書はSargentのStandard First Readerを原本にして,英語入門の便に供したもの。内容は72課からなり,順次やさしいものから高度のものへと段階を追っている。現在からみると,訳語において不十分な点は見逃すことが出来ず,助動詞,前置詞の理解において,今一息の所が多くみうけられる。(日本英学資料解題)

24 青柳毅訳『交際必携 英和対牘 上』日新堂栞,1872.06
英文手紙の範例が収められている。上巻十八例は主として,日常生活に関するものが多く,下巻十九例は商売往来のものが多く,商業文が多く収められている。英文は外人の手になる要を得た達意のものが書かれており,綴りも正確であり,印刷も鮮明,当時としては立派なものである。(日本英学資料解題)

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25 讃井逸三・川村秀二合訳『密都爾氏 地理書直訳(上,下)』村上勘兵衛,1872,全3巻(中なし)
米人ミッチェル『地理書』(資料番号28参照)の直訳本。当時の文明発達段階説が紹介されており、日本は「半開人」(未開と文明開化の中間段階)と規定されている。当時の知識人に与えた影響は大きい。

26 井上廉平輯『西洋画引節用集』大野木市兵衛,1872
本書はイロハ引の和英絵入単語書で,巻頭には本書が一冊子にすぎないが大いに童蒙に益するであろうと称賛した序文と,「袖中亦有珠」と書した題字をもらい,更に「洋婦人幼稚教育之図」と称する木版彩色画をかかげるなど,凝ったものであるが,成立事情は明治4年の『袖珍英和節用集』に準拠して語を抜粋し,それに絵を加えたものに過ぎない。(日本英学資料解題)

27 山田正精訳『英学必携 上』玉山堂,1872
「本書は慶応2年開成所から出された『英学階梯』の訳である。」(日本英学資料解題)

28 Mitchell. S.A. Mitchell's New School Geography (A System of Modern Geography.) E.H.Butler & Co.,1872
日本でも明治初期に広く用いられた米人ミッチェルの地理書。文明の発達段階に応じて、人類をSavage(野蛮)、Barbarous(未開)、Half-Civilized(半文明)、Civilized(文明)、Civilized and Enlightened(文明開化)の5段階に区分している。このうち、ヨーロッパ人種は「色白で立派な顔立ちとよく発達した体格をしている。人類の中で最も進歩した知的な人種であり、最高度の進歩と文明を達成する能力があると思われる」と書かれている。特に米、英、仏、独などの文明開化人(Civilized and Enlightened)は「安楽で贅沢な暮らしをし、国民の大部分は満足感と繁栄にみちた生活を享受している」とする。他方で、蒙古人種は「気質は忍耐強く勤勉だが、才能に限界があり進歩が遅い」と手厳しい。日本人は「半文明人」(Half-Civilized)で、「外国人を警戒し、自国の女性たちを奴隷扱いする」とある(高梨1985参照)。

29 根岸毅一『第一益所日暦 完 (研學日誌)』1873.8.28開始
2533(1873)明治6 年8 月、武州の根岸毅一という学生が東京日本橋で英語を学び、その学習内容を記した貴重な日記。冒頭部分は以下の通り。

八月
二十八日兼雨
英學査檢以為十等之二番
和英辭書草稿四枚
為使日本橋通四街目岡氏

二十九日曇時々小雨
筆算査閲初級之為一番
和英辭書草稿四枚
英文典温読六枚半

三十日微雨比午後一時晴
温読 英文典自六枚半際十五枚
   国史略自六十五枚六枚
受教洋算八〔?〕點除分回化分小数二小数加
   法二三時間
   英學三十三之直説法之章終十三行
和英辭書草稿四枚
致書翰故郷

本資料については、過去ログ参照。

(つづく)