希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

英語科における協同学習の原理と実践(6)Show & Tell

 英語科における協同学習(CL)を取り入れた実践例については三浦孝ほか『ヒューマンな英語授業がしたい!』(2006)をはじめ、徐々に紹介されるようになってきた。

 和歌山大学大学院江利川研究室で学んだ中西佐江(和歌山県立高校教諭)は、それらのうち典型的な活動11例を、4技能別、対象学年別、協同学習の原理別に分類し、一覧表にした(中西が和歌山大学に提出した修士論文所収:このブログ連載の第8回に掲載予定)。

 これらのうち、ここでは中西が和歌山県立高校で行ったShow & TellとTriangle Discussionの実践に即して事例研究を行いたい。

 対象は3年生12名(男子7名、女子5名)で、日常生活に役立つ英語の基礎習得と活用能力の育成を目標とした学校設定科目「生活英語」を選択した生徒たちである。並行して開講されているReadingを選択した生徒に比べると、英語に対して苦手意識を持つ生徒が多く、学習動機も高くない。そのため、教科書を使用せず、自主教材による授業を行っている。

 中学からの英語授業においては従来からのペア・グループでの活動は経験しているが、協同学習を取り入れた英語の授業は初めてである。また、同高校で協同学習を取り入れたのもこのクラスが最初である。

 2008年度の年間計画は、4・5月がShow & Tell、6・7月がCM Project、9・10月がTriangle Discussion、11・12月がDebate、1月がSpeechだった。このうち、Show & TellとTriangle Discussionについて述べたい。
 
 (1) Show & Tell
 自分が最も大切に思っているものについて、クラス全員の前で英語で3分程度スピーチする典型的な自己表現活動である。

 《A. 活動の概要とねらい》
 全体を8回に分け、1回目は教師によるモデルを聞かせ、自分が表現したい事柄をメモ的に書かせるMapping、2~4回目は原稿作成、5~7回目が発表練習、8回目が発表である。

 原稿作成や発表練習の過程において学び合う関係の構築を目的とした。「背伸びとジャンプ」の学びが成立するよう、生徒が難しいと感じるような課題を設定した。そうすることにより、活動を終えた後の達成感や自己肯定感を感じることができると考えた。
 また、自分の考えや気持ちなど、伝えたいことを表現できる能力およびクラスメイトのスピーチを聴いて内容を理解することができる力の育成を目指した。

 《B. 生徒の変容》
 活動を始めたばかりの頃は、課題の設定が難しいと感じている生徒が多いようであった。しかし、発表が近づくにつれ学習に対する取り組みが真剣になり、日ごろは辞書を引かない生徒が引くようになったり、グループの仲間との教え合い・学び合いが活発になっていった。

 発表を終えたあとの生徒の感想を見てみると、「達成感を感じた」「英語の力がついたような気がする」「ペアやグループの人たちと協力して取り組めた」など、この活動に対して肯定的に捉えている様子が見えた。
 また英語学習に対する苦手意識が減少したというものがあり、動機付けの面においても効果があったようである。

 《C. 考察》
 実践を行ったクラスの生徒は、今回の活動のようにまとまった内容のスピーチを英語で行う経験がなかった。そのような生徒たちに対して、発表までのペア・グループ活動を意欲的に取り組ませる課題を設定することが大切である。そのためには、次の2点が重要である。

 \古未虜の力より少し高めの目標を設定し、協同学習を効果的に取り入れること。
 ∪古未達成感を感じ、その後の学習への動機が高まるような課題を設定すること。

 「背伸びとジャンプ」の学びを活動に取り入れることにより、生徒の学びの質が深まったように思われる。パートナーやグループのメンバーと協力することで、より高い目標に到達できることを実感させることが重要である。
 特にShow & Tellでは活動の締めくくりが個人の発表となるため、学びの主体を個人におき、生徒間での活発な教え合いを組織する協同学習を取り入れることは効果的であった。

 また、「背伸びとジャンプ」の学びが成立すると、「やればできる」という達成感を感じることができる。協同学習を取り入れることにより、その達成感が個人の努力だけでなく、仲間と学び合う関係の中で生まれたものであれば、生徒一人ひとりの自己肯定感(自尊感情)が高まると同時に、仲間への信頼感も深まる。そのような課題を設定することで、その後の学習動機も高まるのである。

(つづく)