希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(4)高梨健吉『英語の構文150』他

英語参考書は、日本人の英語力を養う上で大きな役割を果たしてきた。
なのに、「日陰者」扱いだ。
図書館にもほとんど保管されることなく、使用者の記憶と共に消えていく。
だからこそ、記録にとどめておきたい。
2010年も、どんどん紹介していく。

本年は、高梨健吉先生の参考書から始めたい。
高梨先生は1919年生まれだから現在90歳。お元気で、英学史学会の例会にも出席される。
慶應義塾大学で長らく教えられ、専門は日本英学史・英語教育史。『日本の英語教育史』(1975)、『文明開化の英語』 (1986、中公文庫) 、『日本英学史考』(1996)などはお勧めだ。
東京文理科大(現・筑波大)のご出身で、福原麟太郎の流れをくむ。

僕が初めてお目にかかったのは、1990年の10月に日本英語教育史学会月例会(拓殖大学)だった。
まだ大学院生兼予備校講師だった僕は、雲の上の存在だった高梨先生に意を決して話しかけた。
「先生が書かれた『英語の構文150』を愛用しています。」
 (しまった、英語教育史の話をすればよかったのに、手遅れ・・・)
高梨先生は、「それはどうも。何か間違いがあったら教えてください。」
謙虚な先生だなと思った。

その後も、院生だった僕に資料や文献を郵送してくださった。
僕の拙い論文には、いつも達意の筆でお褒めや励ましの葉書をくださった。

そんな優しい人柄が、先生の参考書にはにじみ出ている。
「読む人の顔を思い浮かべて、どうしたら良くわかってくれるか考えながら書くんですよ」と先生はおっしゃった。

数多い高梨シリーズの中でも、一番好きなのは『英語の構文150』(美誠社)だ。
この本は、塾や予備校の個別指導でも家庭教師でも使ったテキスト。
生徒がメキメキ実力を付けていったのを鮮明に覚えている。

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初版は1969年で、1978年に改訂新版、1982年に新訂版と版を重ね、1988年に「新」が付いた四訂版(写真)が出た。現在は岡田伸夫著として2004年版が出ている。

高梨先生の本で、もっとも多くの高校生を励ましたのが『高校生の基礎からの英語』(美誠社)ではないだろうか。高校入学と同時に手にした人も多いだろう。
初版は1967年、1969年に改訂版、1971年に三訂版、1973年に四訂版、1982年に六訂版、1988年に「新」が付いた八訂版とバージョンアップし、ロングセラーを続けた。

なお、東京オリンピックが開催された1964年に、先生は『高校生の基礎英語の完成』(美誠社)を刊行されている。

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教師になってからも、良き相談相手として大いに役立ったのが『総解英文法』(1970初版)。
725ページの大著で、親切さと詳細さを両立させた有り難い1冊だ。

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構文本位のわかりやすい英作文参考書が『高校生の演習英作文』(美誠社)。
初版は1968年で、手許の1988年版は第24刷だ。
まず平易な暗誦例文が付き、その詳細な解説ののちに、応用例題へと続く。
僕は後年、大学用の英作文教科書を執筆した際に大いに参考にさせていただいた。

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最後に、幻の1冊をお勧めしたい。
『高校生の基礎英文解釈の完成』(美誠社)である。

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1965年4月1日に出て同年6月20日は第7刷を数えているから、いかに当時の高校生に受け入れられたかがわかる。
文法シラバスで、構文中心。解説中の語句には発音記号まで付けられ、「大切な点」では高校生が間違いやすいポイントを丁寧に指摘している。

「授業は英語で行う」などと無責任な方針が強制されようとする今、「序文」の次の一言は再認識されるべきであろう。

「英語は好きだが国語はきらいだという態度は、諸君の英語力そのものの進歩をとめるであろう。この方面〔=英文解釈に必要な論理的思考〕の力の錬磨ということに関しては、英文であろうと日本文であろうと思想的、哲学的内容を持ったものを極力読まれることをおすすめする。」

僕は、英語政策の立案に携わる人にも「英文であろうと日本文であろうと思想的、哲学的内容を持ったものを極力読まれることをおすすめする。」

「哲学の貧困」ーーこれこそが、新高校指導要領(外国語)の特徴であるから。

僕もそうならないよう、マルクスの『哲学の貧困』でも読み直そうかな。