希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(5)柴田徹士『英文解釈の技術』

大阪大学教授で『アンカー英和辞典』(1972;学研)の編集主幹だった柴田徹士は努力の人だ。

柴田は1910(明治43)年に香川県に生まれ、10人きょうだいの長男として昼間は家業の豆腐屋を手伝いながら、夜間の商業学校を卒業。2年後の1930(昭和5)年に難関の文部省中等教員検定試験(文検)英語科に合格したが、その後も豆腐屋を手伝い、朝まだ暗いうちから油揚げ作りを続けていた。

さらに独学を続け、1933(昭和8)年には高等教員検定試験英語科に合格。今でいえば、大学教授資格といったレベルの試験。新聞で「豆腐屋が高等教員に合格」と社会面のトップ記事になったという(儀同保『独学者列伝』)。

こうして、大阪府立高津中学(現・高津高校)の教諭となり、1942(昭和17)年には甲陽高等商業学校の教授、次いで大阪府立浪花高等学校の教授を務め、戦後の学制改革により新制大阪大学教養部の教授となった。1999年没。
*柴田が自らの英語学習暦と勉強法などを語った『英語再入門』(南雲堂、1985)はおススメだ。

英文解釈法の一つの到達点

そんな柴田が執筆した名参考書が『英文解釈の技術』(1960年2月29日発行、金子書房)だ。
1995年に第45刷と版を重ねたが、現在は絶版。古書店やオークションでは、しばしば1万円を超す高値が付いている。今なお需要(?)がある証拠だ。

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500ページを超す大著で、全体の構成は以下の通り。

第Ⅰ編 入門編
第Ⅱ編 基礎研究編
第Ⅲ編 構文研究編
第Ⅳ編 特殊項目研究編
第Ⅴ編 従属節研究編
第Ⅵ編 長文研究編

このように、高1段階から大学受験段階まで、この1冊で段階的に実力が付くように構成されている。
巻末には29ページに及ぶ「熟語・構文索引」と12ページに及ぶ「文法用語索引」が付けられており、まさに高校生の座右の書として使える。

この本は柴田が1955(昭和30)年に著した『新講英文解釈』を改訂したものだが、独学者だった柴田らしい体験に基づく気配りに満ちている。

参考までに、第Ⅱ編第2章の「英文解釈の考え方」を載せよう(書き込みはご容赦を)。

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今日でも充分に通用する、卓越した英文解釈論ではないだろうか。
僕はここに、明治中期から発達してきた日本人本位の学習法である「英文解釈法」の一つの到達点を見る思いがする。