希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(21)山貞『新英文解釈』から『新々英文解釈』へ

山崎貞の『英文解釈研究』は9訂版まで刊行されたが、そのうち特に大きな改訂は、2訂版(1916年)、3訂版(1925年)、7訂版(1965年)、9訂版(1979年)の4回である。

『公式応用 新英文解釈研究』(1916 二訂版)

1916(大正5)年1月5日発行で、版元は英語研究社(この年に「研究社」への社名変更)。
本文282頁+解答編184頁+索引12頁=478頁。
(*なお、国会図書館Webcatも、この本が184頁であると誤記しているが、これは解答編の頁で、その前に282頁の本篇があるので要注意。)

慣用語句と構文にもとづく項目立ては114、例題はちょうど1,000問。

扉は初版(1912)と同じ英語タイトルの下に「山崎貞著/新英文解釈研究」と縦に入っている。
ただし、奥付には初版同様に「公式応用」が入っている。

幸い、この本は国会図書館近代デジタルライブラリーで全ページ読むこともコピーすることもできるので、ここでは画像は割愛する。

「はしがき」には以下の記述がある(抜粋)。

◆「書肆から新しい読者の便を計る為に新試験問題を加ふる事を求められたのを機とし、全部に亘り改訂を施し『新』の字を冠して出す事にした。」

◆「旧版例題中徒らに難解にして実用に遠きものは省き、最新試験問題を加へたから、明治三十五年度より大正四年度に至る学校入学試験問題は大部分之を収録した事になる。其他は主として現行英語教科書補習読本等に材を求めた。」

なぜか「はしがき」では触れていないが、大きな変更点は本文篇と解答編とを合体させ1冊本にしたことである。以後の版はみな1冊本である。
本文の解説も分かりやすく改良されている。
そのため売れ行きも好調で、僕の本の奥付を見ると、3年後の1919年10月で23版を重ねている。

『新々英文解釈研究』(1925 三訂版)の登場

『新々英文解釈研究』研究社、1925(大正14)年2月5日発行
いよいよ『新々』の登場である。この名前はこれから約70年間にわたって受験生に親しまれた。

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本文287頁+解答編164頁+索引12頁の計484頁。
項目は112、例題は1,001。

大きな変更点は、本文に先立って6頁にわたる「発音略説」が付いたことである。
発音表記は、今日まで使われているIPA(国際音標文字)である。

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この『新々』が出た1920年代は音声指導の変革期だった。
1922(大正11)年にはH. E. Palmerが来日し、文部省内の英語教授研究所を拠点にオーラル・メソッドの普及に努める。
同じ1922年には、IPA(国際音標文字)を採用した岡倉由三郎『英語小発音学』と豊田實『英語発音法』、それに『袖珍コンサイス英和辞典』が出た。
翌1923年には市河三喜『英語発音辞典』が出た。

さらに、1924(大正13)年には、全国共通だった高等学校の入試問題にアクセント記号を付ける問題が出された。音声重視を象徴する新機軸だったが、まぐれ当たりが多いなどの批判にさらされ、わずか2年で中止された。
それでも、『新々』をはじめ、受験参考書に与えた影響は大きい。

「はしがき」には以下の記述がある(抜粋)。

◆「例題の大部分は明治35年より大正12年に至る諸学校の入学試験問題から採り、その他は主として現行英語教科書の材を求めた。」 

◆「近年発音の忽にすべからざる事が識者間に高調せられ、高等学校、商大等の入学試験にはAccentuationの問題が加へられ様になつた、是れ誠に然るべき事であつて、他の諸学校も漸次之に倣ふだらうと思ふ。本書は此趨勢に鑑み、毎頁重要なる単語の発音と訳語とを脚註として附する事にした。之に就いては別項『発音略説』を一読せられたい。」

本文の解説などは2訂版(1916)と大きな違いはないが、本文中の難解な単語についても脚註で意味と発音記号が付けられている点に注目されたい。
こうして、英文解釈の本でありながら、『新々』になってからは音声指導にも配慮するようになったのである。

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解説編も訳だけではなく、難解な語句の英語によるパラフレーズや、本文の何番の「公式」を参照せよ、などの指示があり、親切である。

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僕の手許の本は1938年3月25日発行の第137版で、翌1939年には149版を数えているから、「小野圭」シリーズなどのライバルが台頭する中にあっても、たいへんな売れ行きだ。

山崎貞の『英文解釈研究』(1912)は、『新』(1916)から『新々』(1925)へと着実に進化をとげたのである。