希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

懐かしの英語参考書(6)佐山栄太郎『最新英文解釈』

戦後の長文化に対応したハイレベルの英文解釈書

佐山栄太郎といえば、2008年に復刊された山崎貞の名著『新々英文解釈』の改訂者として記憶されている方も多いと思う。

しかし、佐山自身の英文解釈参考書については、今ではあまり知られてはいないのではないだろうか。
東大助教授だった佐山は、新制高校の初めての卒業生が出た1951(昭和26)年に、研究社から『最新英文解釈』を出している(写真は1951年4月1日発行の初版)。

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内容はかなりハイレベルで、「新制高等学校三年生程度の学力をもつ者で、将来英語を利用しようとする意欲を懐いている人達」を対象としている。

当時としては「長文」を読みこなせる実力の養成を意図している。
(とはいっても、著作権の制約から、版権のある作品は引用限度である400語以内としているが。)
この「長文読解」こそ、本書の最大の特長である。佐山は次のように述べている。

「従来の参考書が構文本位とか慣用句中心とかであるために、材料は短文が多く、いわばこまぎれ式の研究に堕した感があるのに鑑みて、本書では、外的条件の許す限り〔=著作権の制約のこのとであろう〕長い文章を単位として取り扱うことにした。」

こうした長文化は戦後の英文解釈参考書の一つの流れとなり、同じ年の9月に刊行された成田成寿『高等英文解釈研究』(本連載の第2回で紹介)などに引き継がれていく。それは入試出題傾向の反映でもあった。

『最新英文解釈』の全体構成は題材のテーマ別で、以下の通り。

第一篇 軽い随筆から
第二篇 小説・伝記から
第三篇 科学的読みものから
第四篇 教養的随筆から
第五篇 政治・国民生活等に関する文節

特に最後の第五篇は、民主主義、人権、平和、権利、平等といった内容が多く、戦後民主主義教育の息吹を感じさせる。

まず英文が註釈なしてドーンと据えられ、果敢に読み通すことが求められる。まずは全体のイメージを自力で把握させるのである。

その努力をへて【通覧】へ進むと、佐山の文章は名コーチの言葉のように染みてくる。
冒頭の英文を見てみよう。

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それから各部分の【詳察】へと進む。〔構成〕と〔語句〕から成るこの部分は、旧来の英文解釈書に近い。
ここで細部にわたって読解作業を続け、全体に関する【訳例】にたどりつく。

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と、ここまでなら普通の英文解釈書なのだが、その後に最後の難関が待ち受けている。
英問英答のTEST QUESTIONである。

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この部分は、戦前にオーラルメソッドを提唱したパーマーの英問英答指導法Questions and Answeresを想い出させる。
ただし、このTEST QUESTIONには解答が付けられていないので、生徒は困ったのではないだろうか。

同書は1954(昭和29)年に改訂され、副題に「長文の徹底的理解」が付いた。
さらに1967(昭和42)年1月に第三訂版が出た。
これには都立九段高校の伊部哲氏が協力している。

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変更点を見ると、この間の生徒層、入試傾向、指導法の変化が読み取れる。
初版と同じ英文ながら、実に丁寧な構成となっている。

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何の註釈もない長文に挑ませる方式から、「読者はまず脚註をたよりにテクストを読み、次に掲げてある設問に目を通すことによって解釈のポイントをつかむ」方式に変わった。

入試傾向の変化を反映して、英文も総合問題化されている。
斬新だった英問英答のTEST QUESTIONは消えている。入試に出ないからでもあろう。

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こうした工夫をこらした三訂版だったが、1967年1月の出版以来、1969年3月に第2刷、1972年1月に第3刷だから、参考書としては売れ行き好調というわけではなかった。

高校生と大学の大衆化・多様化が進み、こうした「骨のある」英文を読み解くよりも、苦労しないで、手っ取り早く点が取れる参考書が求められていく時代に入るのである。