「長文解釈」と銘打った唯一の参考書
戦後の大学入試英語の一つの傾向は、長文化したことである。そのため、早くは1950年代初めから、これに対応した参考書が出ていた。第6回で紹介した佐山栄太郎『最新英文解釈』(1951)や、第2回の成田成寿『高等英文解釈研究』(1951)などはその好例である。
だが、「長文解釈」と銘打った参考書は、おそらくこの『英語長文解釈の完全研究』(学習研究社、1966年5月1日初版)だけなのではないか。
参考までに国会図書館やWebcatのデータベースに「長文解釈」と入れても1件もヒットしなかった(ということは、この本はどの図書館にも所蔵されていないのか)。
「英文解釈」で入力すると、国会図書館では590件、Webcatでは120件ヒットする。
「長文読解」では国会図書館が119件、Webcatが12件だ。
「英文解釈」で入力すると、国会図書館では590件、Webcatでは120件ヒットする。
「長文読解」では国会図書館が119件、Webcatが12件だ。
ちなみに、戦前には長谷川康『長文英語こなし方』(敬文館、1923)が出ていた。
それ以外に「長文」を冠した戦前の参考書を僕は知らない。
それ以外に「長文」を冠した戦前の参考書を僕は知らない。
さて、戦後入試英文の長文化について、著者の宮崎は次のように述べている。
「最近の入試で、英文解釈の問題が長文化の傾向を示していることは顕著な事実である。50~60語ぐらいの問題は短いほうで、100語、200語、ときには数百から1,000語に近い問題が出題されている。思想表現の手段としてのことばの機能を思うとき、これは当然の現象なのであって、真の読解力をみるためには、まとまった内容をもった相当長い文章を出題することがぜひとも必要なのである。」
さて、まず本書を手にして感嘆するのは、レイアウトがとても美しいことである。
「はしがき」「本書の特色と使い方」「目次」「作家別目次」、そして何より本文の例題が、どれも1ページないし見開きページにきちんと収まっている。
職人技といえよう。
何より、学習効率を上げる。ページをあれこれめくり、注解や訳文を探さなくてもよいからだ。
この種のレイアウトの美しさで想い出される参考書には、他に芹沢栄『英文解釈』(金子書房、1958三訂版)があるが、この本もいずれ紹介したい。
「はしがき」「本書の特色と使い方」「目次」「作家別目次」、そして何より本文の例題が、どれも1ページないし見開きページにきちんと収まっている。
職人技といえよう。
何より、学習効率を上げる。ページをあれこれめくり、注解や訳文を探さなくてもよいからだ。
この種のレイアウトの美しさで想い出される参考書には、他に芹沢栄『英文解釈』(金子書房、1958三訂版)があるが、この本もいずれ紹介したい。
全体は難易度順に3段階に分かれている。
例題はそれぞれが30題ずつの合計90題で、1日1題ずつ解いて、3カ月で完成するように編集されている。
最後まで終われば、相当な力が付くだろう。うちのゼミの学生にやらせたい衝動に駆られる。
例題はそれぞれが30題ずつの合計90題で、1日1題ずつ解いて、3カ月で完成するように編集されている。
最後まで終われば、相当な力が付くだろう。うちのゼミの学生にやらせたい衝動に駆られる。
目次には作家と出典が明記されている。これ自体が当時の入試英文の傾向を把握するための資料的な価値をもつので、目次の全文を掲載しよう。
ちなみに、拙著『日本人は英語をどう学んできたか』(研究社、2006)で示したように、「出典研究の第一人者」と言われた原仙作の『英文標準問題精講』(1962年版)に掲載された作家の上位は以下の通りである。
Russell, B. 15 Maugham, S. 12
Huxley, A. 10 Lynd, R. 8
Hearn, L. 5 Gardiner, A 5
Priestley, J. 4 Hemingway, E. 4
Spender, S. 4 Gissing, G. 3
Huxley, A. 10 Lynd, R. 8
Hearn, L. 5 Gardiner, A 5
Priestley, J. 4 Hemingway, E. 4
Spender, S. 4 Gissing, G. 3
さて、本書の最初の例題は以下の通り。
「語句」「着眼点」「構文」「訳」のバランスがよく、すべてを見開きページに収めている。見事としか言いようのない編集だ。
こうした例題の後には練習問題が付いており、こちらはすべて入試問題だ。
最後に「はしがき」から宮崎孝一の言葉を引用しておこう。
「安価なマスコミの攻勢に囲まれて、現代のわれわれは、ともすれば落ち着いてものを考える態度を失いがちである。本書によってつちかわれた思考態度が、入試のみならず、広く諸君の生き方の上での一助となれば著者の喜びはこれにまさるものはない。」