希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)2

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考えるブログです。

「英文解釈」という用語の登場

懐かしの英語参考書(12)で、日本で最初に「英文解釈」と銘打った参考書が梅澤壽郎『英文解釈法』(1905:明治38年)だと紹介した。

しかし、「英文解釈」自体はそれ以前から教えられていた。

いつ頃から「英文解釈」という用語が登場したのだろうか

その謎を解くひとつの史料として、ここでは「岩手中学校教則」(1882:明治15年6月27日改正)を紹介したい。同校は現在の岩手県立盛岡第一高等学校の前身である。

その第12条「英語」を見ると、綴字、読方、訳読、読書、文法、修辞、習字、作文の8種類の分科ごとに概要が記されている。当時はそれぞれの分科を別々の教師が統一なく教える場合も珍しくなかったのである。

同校の初等中学科は4年制で、入学時の第8級から卒業時の第1級まで半年ごとに分けられた。
英語は各級とも週6時間で、各分科の配当と教科書は以下の通りである。

級 分  科
8 綴字(付・書取 ウェブスター綴字書)、読方(ウイルソン第一リードル)、訳読、習字
7 綴字(前級の続)、読方(同・第二リードル)、訳読、習字
6 文法(ブラオン小英文法書)、読書・付・書取(同第三リードル)、習字
5 文法(ブラオン大英文法書)、読書・付・書取(全休の続)、習字
4 文法(前級の続)、読書・付・書取(勧善読本)、作文
3 読書・付・書取(ウイルソン第四リードル)、作文
2 読書(同第五リードル)、作文
1 読書(前級の続)、作文

このうちの第6級=中2以上で教えられた「読書」の中に「英文解釈」が出てくる。単なる「訳読」とは区別されていた点が注目される。

綴字は文字の名および音、母音・子音の区別、分音法等を授け、漸く進んで単語・熟語等を書取らしめ、もって語音を正し綴字に達せしむ。

読方は稍く綴字に通ずるに及んで之を課し、音声の抑揚、句読の断続に熟せしめ、その読むところのもの直ちに他人に通ずるに至るを要す。

訳読は読方とともにこれを課し、英語を邦語に訳し、その意味を解せしめ、その訳するところの語句は自ら章を成し、直ちにこれを筆し、かつ誦すべきに至るを要す。

読書は読方、訳読を兼ね授くるものにして、章句を流読せしめ、その読法を正し、教師これを講明し、あるいは生徒をして解釈せしめ、もって英文解釈の力を養ひ、また緊要の字句を書取らしめ、綴字に達し筆記に慣れしめん事を要す。

文法はまず字論、辞論、文論等諸部の定則を授け、その進むにしたがって、既に学ぶところの文章に就きその応用を示し、また文章の組成解剖を授け、文法諸則の応用に達せしむるを要す。

修辞は句点の法、字句の配置、譬喩の用法および文章の諸体を授け、進んで詩歌に及び、すべて英文諸体の法則を会得せしむるを要す。

習字はまず字画を授け、次に習字本に就き運筆を習はしむ。

作文はまず作例に依りて填語法を教へ、次に紀事および簡単なる日用書類等を草せしめ、進んで和文あるいは漢文を反訳せしめ、また即題宿題に就き論説等を作らしむ。

*引用は『白堊校百年史通史』岩手県立盛岡第一高等学校創立百周年記念事業推進委員会発行、1981、p.50より。原文のカタカナ表記は平仮名に、一部の漢字は仮名に改め、改行を増やした。

このように、学校現場で「英文解釈」という用語が使われた時代は、少なくとも1882(明治15)年までは遡ることができる。

どなたか、もっと古い史料をご存じあれば、ぜひ教えを乞いたい。